きれいな歯並びの育て方 ~子供のために親ができること~

あなたのお子さんは
きれいな歯並びになりますか?

あなたのお子さんはきれいな歯並びになりますか?

「親の歯並びが悪いから子供も悪くなるのは仕方ない」

なんて思っていませんか?

親子の顔が似ているのは遺伝子が同じであるからで避けることはできませんが、親に似て歯並びが必ず悪くなるということはありません。
哺乳類という動物である以上、正しい成長発達をすれば適切な機能を発揮できる身体に育つわけであり、例外はありません。
歯並びが悪くなるお子さんは必ずその成長発達の過程において間違いをおかしているのです。

成長過程にある子供自身は、自分の成長発達の状況が間違っているかの判断ができませんから、子供の歯並びの良否は、管理者である保護者が正しい知識を持っているか、子供を注意深く観察しているか、そしてもし成長発達の過程で間違いがあったときに正しく修正を行っているかによります。

なぜ歯並びが悪くなるのか?

歯並びが悪くなるのは、口にまつわる筋肉の使い方の間違った学習によります。
まずは安静にしている時の舌の位置です。
舌尖は上顎前歯のすぐ後ろの上あごに接触しており、舌全体は口蓋に軽く触れていなくてはなりません。
そして唇は閉じていることです。
このことで鼻呼吸となります。
嚥下時も舌尖が動くことはありません。正しい舌と唇の位置、そして鼻呼吸と正しい嚥下ができれば、それによって整った歯並びになります。
この簡単な事柄が、様々な理由で習得できず、間違って学習してしまうことで歯並びが悪くなるのです。

歯並びをきれいにするための
子どもの観察法

間違いを起こさないために保護者の方は子供の顔の様子を観察することです。
まず行う確認は口呼吸をしていないかを確認します。口をぽかんと開いていないかは当然ですが、勉強中など脳が強く働くときに無意識に口を開いてしまうのも隠れ口呼吸です。

次のチェックは軽く口を閉じた状態の観察です。
このときに口の周りにしわが入ったり、オトガイ(唇真下の下あごの先端部)に梅干しのようなしわが入っていないかをチェックしましょう。
軽く唇を閉じるときに筋肉は無駄な緊張はしません。

最後にこの安静な状態から唾を飲み込む動作をさせてチェックします。
このときに唇やその周囲が動くようなときは正しい嚥下の動作ができていません。

歯並びを整えるにあたって

歯並びが悪くなってから考える。これは一つの考え方です。
しかしその処置方法は、歯を抜いたり、ブラケットやワイヤーを装着したりしなければならず、費用のみならず子供の生活やメンタルへの負担は計り知れません。
ですから周囲の大人が少し知恵を使い、子供の歯並びが良くなる支援をしてあげましょう。
それは目の前の負担軽減だけでなく、子供の将来の病気のリスクも軽減します。

健康で豊かな子供の将来のために、かしこい保護者になってください。

 

豊かな生活は口の健康から ~歯を守ることは病気を防ぐこと~

糖尿病と口の病気

糖尿病に罹患している方では歯周病が重篤化する傾向から、歯周病が糖尿病の影響で悪化するものと考えられた時代がありました。
しかし糖尿病の病態が明らかになるにつれ、歯周病が糖尿病と深く関わっているだけでなく、歯周病が糖尿病を引き起こすことがわかってきました。
つまり歯周病と糖尿病には双方向性の関係があるのです。

歯周病に罹患した炎症歯肉内では大量のTNF-αを含む炎症性サイトカインが産生されており、これが血行を介してインスリンの作用を妨げます。
他方肥満傾向にあるⅡ型糖尿病患者では脂肪細胞から種々のアディポカインが作り出されており、その中には炎症性サイトカインが含まれこれがインスリンの作用を妨げており、この糖尿病発症進展のメカニズムが歯周病と一致するというわけです。

つまり糖尿病を発症進展させるメカニズムが歯周病で発生している状況と一致しているのです。
ですから歯周病の管理は糖尿病を防ぐことになるのです。

脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化と
口の病気

動脈硬化が進んだ血管内部では、アテロームと呼ばれる瘤が発生し、血管を詰まらせて脳梗塞や心筋梗塞を発症させています。
このアテロームを精査すると、その内部には血液中に侵入した歯周病関連物質の存在が確認されました。
歯周病の発症部分では、24時間365日続けて外部からの侵入者に対する免疫応答が繰り広げられ、ここから歯周病原性菌が侵入します。

また、その場で産生された細菌の内毒素や炎症性サイトカインらが一緒に血流を介してアテロームへと運ばれるのです。
これがアテローム内部に歯周病関連物質が存在する仕組みなのです。

ですから歯周病の排除は血管の病気による命の危険から、身体を守ることに繋がるのです。

睡眠時無呼吸症と口の関係

口の周囲(舌・口唇・頬)の使い方の間違いを原因として顎の成長が少なくなると舌が後方に押しやられ睡眠時に気道を塞いでしまいます。
これが睡眠時無呼吸症です。
この病気が発症すると脳・心血管疾患や昼間の事故の発生確率が数倍にも跳ね上がり、死亡リスクが健常者に対して極めて高くなります。

元来口は消化器ですが咽頭部分を呼吸器と供用しているため、臓器としての口の形態と機能が正しくなければ、呼吸動作にも影響してしまうのです。
致命的な失敗は不正な歯並びや機能を放置することや矯正治療で不用意に歯を間引くことです。

歯科的な健康の確認とその回復方法の選択が命を脅かす問題になってしまうのです。

予防医療から見た口の健康の重要性

歯科医療は医科とは異なり、命とは関係ないという認識は誤りです。
すでに予防医療に取り組む医療者の中では、歯科的な健康が確保されなければ、健康な身体を維持できないというのは常識であり、口腔内の疾患がガン・血管疾患を代表とする慢性疾患の原因の一つであると認識されています。

口の中に生じる炎症性の病気の排除、呼吸器機能を阻害しない適正な口腔の成長発達の支援と機能回復は健康な体作りの基本であり、入り口です。

自分に合った適切なホームドクターを確保され、健康で豊かな人生を手に入れてください。

うまく咬めないのはなぜ ~歯を守るための咬み合わせ治療~

歯並びと咬み合わせは違う

歯並びを整えることが咬みあわせを良くすることだと思い込んでいる方がおられます。この理解は間違いで正しい理解は、歯並びとは「歯同士の位置関係」の事であり、咬み合わせとは「上下の歯の接触関係」の事です。

ですから、歯並びが良くても咬み合わせが良いとは言えませんし、また歯並びが悪くても咬み合わせには問題がない方もおられます。

確かにきれいな歯並びであることは良い咬み合わせが完成するための良い条件であることに疑いがありませんが、咬み合わせを評価するときには正しい咬み合わせの基準を満たしているかがポイントとなります。

正しい咬み合わせでは3つの要素が満たされていなくてはなりません。

 ① 顎関節が正し位置にある状態で上下のすべての歯が
  同時に咬みあうこと。

 ② 顎関節からできるだけ遠い前歯で顎の動きを円滑に
  道案内していること。

 ③ 下顎がこの道案内により動き始めると同時に奥歯が
  離れること。

この要素が満たされていると、咬み合わせが原因の不快な症状や病気が発生することはなく、歯は壊れることがありません。

良くない咬みあわせで発生する症状

咬み合わせが悪いことが原因で発生する身体の不調には、肩こり、頭痛、腰痛、顎
関節症、知覚過敏、開口障害、歯の破折や摩耗、歯の動揺など、数多くあり、これら
が引き金となりほかの病気を発症することもあります。

しかし多くの方がこれらの症状が咬み合わせにより発症しているとは理解していません。
また歯科医師の中でもこれらの症状が咬み合わせと関連していることを知らなかったりします。

咬み合わせによる問題は上下の歯の接触関係により発生しますが、その接触関係は30ミクロンのレベルの誤差が問題となります。
髪の毛の太さが70ミクロンといわれていますから、いかに繊細な問題かをお分かり頂けるでしょう。

ヒトという動物は2足歩行をすることで進化しましたが、同時に大変重たい頭を頸の上にのせて過ごすという宿命も受け入れることになりました。
このため咬み合わせがずれて上下の歯が接触したときに顎の位置が少しずれるだけでも、重たい頭をバランスよく乗せておくために重心が移動し、このことがバランスのとれた筋肉の働きを損ない、筋肉の疲労を引き起こし、これが肩こりや頭痛となるのです。

また、良くない咬み合わせを自力で改善しようとする適応反応では、歯ぎしりや食いしばりによってずれのある個所の歯をすり減らそうとします。
そのため口を閉じる筋肉を過剰に緊張させてしまい、これもまた筋肉の疲労を引き起こすことになるのです。

咬み合わせ治療の方法

咬み合わせの治療には原因療法として3つの方法が、対症療法として1つの方法があります。自分の歯で正しく咬み合うように原因療法として取り組む場合には、

①上下の歯を削って調整する

②歯に冠を作成し咬み合わせ面の形を修正する

③歯の位置を動かす

という方法です。

もしこれらの方法が使えない場合には、対症療法としてマウスピースを活用します。

歯に冠を入れたり、入れ歯を入れたときに上下の歯の咬み合わせがどことなくしっくりこなかったり、また咬みにくい場合は、咬み合わせが適切ではありません。

口から始まる全身の病気 ~歯科治療が配慮すべき身体の健康とは~

口の病気と身体の健康

人の体に発生する病気はおおむね2つの種類に分類されます。
1つは「感染」で、本来人の体の中には無かったものが入り込むことにより起こる病気です。
たとえばインフルエンザは本来体の中には居ないウイルスが入り込むことにより発症します。
2つは「機能不全」で、身体を健康に維持する体内での仕組みが壊れることにより起こる病気です。
たとえば体を維持するために必要なエネルギーは、口から取り込まれる食品から栄養素として取り込まれますが、この栄養素が不足すると体が正常に機能せず病気が起こります。
ビタミンやミネラルが不足するとタンパク質・糖・脂肪の分解が行えず、細胞に必要なエネルギーを創ることができません。
いわゆる栄養失調となるのです。
今回はこの2つの病気のうち、感染が口の様子と深くかかわっていることをお話しします。
体の中に細菌が侵入する場合、その細菌の侵入経路が問題となりますが、
3大感染経路は

 ①上咽頭 ②根尖病変 ③歯周病

であり、これらはすべて口に関係しています。
ですから適切な口の健康管理が身体を病気にしないためにとても重要なの
です。

病巣感染がもたらす脳と心臓の病気

口の中に住み着く細菌の毒性は低く、すぐに重篤な病気を発症することはありません。
その反面、歯の根の先に膿がたまる根尖病変や歯の周囲で起こる歯周病では、
24時間365日途切れることなく感染が継続し、炎症反応が起こっています。
この炎症部分から体内へと入り込む細菌は、血液の流れに乗って体内のいたる所へと移動するのです。
このとき血管の内面にできた瘤(アテローム)の中に細菌が入り込むと、そこで細菌が繁殖しこの瘤を大きく成長させます。
その結果血管が詰まってしまい、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすのです。
このように、実際の感染場所とは異なる場所で別の病気が発症する状態を病巣感染と呼びますが、口の中の病気はこの病巣感染の感染源として特に注意をしなくてはならない場所なのです。

歯周病と糖尿病

また歯周病では歯の周囲の歯周ポケットで炎症が発生しており、この歯周病による炎症が糖尿病との双方向性の関係を引き起こしていることがわかっています。
歯周病による炎症箇所の大きさは、歯周ポケットが平均4㎜程度の方で歯が生えそろっている方では約75㎠(おおよそ手のひら程度)ほどあります。
この大きさの範囲で常に細菌感染とそれに対抗する身体の防御反応、つまり炎症が発生しているわけです。
炎症が起こるとそこではいくつもの種類のサイトカインが発生し、この炎症性サイトカインが血糖値調整に関わるインスリンの作用を妨げるのです。
つまり、歯周病の影響によって血糖値を下げる機能が低下するということであり、血液中の血糖値が下がらない糖尿病を重症化させるのです。

歯科治療における全身の病気への配慮

入歯などを作るような歯科治療を行う際に配慮されなければならないにも関わらず見過ごされてきた事柄が2つあります。
それは、「なぜ歯を失ったのか」という原因の確認と「残っている歯の健康状態は万全か」という原因排除の問題です。

歯の治療といえども身体の一部を改善する治療ですから、全身の健康状態に配慮するのは超然であり、また治療した状態が長く健康に維持するためには残された歯に歯を失うような病気が起こらないことが重要です。
何度も治療を繰り返し歯が悪くなり続けることは良いことではありません。
再治療が無く、健康な口が維持されることは、健康な身体を守ることだと言えます。

ですからこれからの歯科医療では、このような配慮を行うことが深く求められることとなるでしょう。

それでもあなたは歯を抜きますか? ~予防医療から見た歯並びと進化した矯正治療~

矯正治療の功罪

人は口を使ってコミュニケーションをとり、他の動物以上に進化を遂げてきました。
そして人は豊かな感性を持ち、情緒的な生活をおくることができるようになったのです。ですから口は、食物を摂取する為だけの臓器ではなく、素敵な笑顔、滑舌よくしゃべり会話を楽しむ事、若々しく美しくあることを満たさなくてはなりません。
つまり豊かな生活を営むために整った歯並びであることが必要であり、そのための治療方法として矯正治療は普及してきました。

しかし旧来の矯正治療では、2つの大きな問題を発生させています。
一つには、歯の並びは整えても咬み合せを正しく整えることについての配慮ができていなかったことです。
この結果、顎関節症、うまく噛めない、肩こりなど筋肉の過剰な緊張を招く、歯がすり減るなどして壊れる、歯の位置が動いて乱れるなどの問題を発生させました。
二つには、歯を間引いて行う矯正により歯で構成される歯並びのアーチが小さくなり、舌の納まるスペースが小さくなってしまって、舌が後方へと押しやられ咽頭部分を狭くしてしましたことです。
この結果、睡眠時無呼吸症を発症させました。
また上咽頭部の通気量が拡大しないため病巣感染源となったり、口呼吸を引き起こしました。
これらの問題は、命や生活を脅かす厄介な問題となっています。

口の機能を育む矯正治療

本来生えてくる永久歯は、あごの骨の中に正しく整列し、上下で咬み合います。
歯を間引かなくても適切な大きさへと顎が成長し、口の周りの筋肉の機能を正常に発達させさえすれば、整った正常な咬み合せが完成するのです。
ですから矯正治療では、適切な機能と形態を持った状態へ口の成長を支援することから始めなくてはならないのです。
具体的には、顎の成長と筋肉の正しい活動を促し、その後永久歯が揃えば正しい咬み合せ関係を作り上げるという手順であり、この手順を実践すれば矯正治療の負担
も軽減されます。
このための矯正治療は、旧来のワイヤーを用いた手法だけでなく、顎骨の緩徐拡大法、筋機能訓練法、マウスピース法、そしてマイクロインプラントによる方法などを組み合わせて実施されるのです。

いつ、どのようにして始めるか?

矯正治療をできるだけ行わず、行う場合でも最小限にとどめるには母乳育児からはじめます。
その後は離乳期の食事内容や生活習慣への配慮を行いながら、お口の適切な成長発達を促し、6歳までには主治医となる歯科医師を見つけ、歯科医院へ行くことを習慣化し、適正な成長を支援してもらうようにしましょう。

6歳臼歯が生えだすと顎の大きさがおおよそ予測できますから、顎骨の大きさが少ないと判断されればこの時期に顎の大きさを拡大する処置や筋機能訓練法を用いたアプローチで、成長を促すのが賢明です。
この後は20歳前までで適正な咬み合せが完成していくのを見守り、歯並びが整わない場合は積極的な介入で歯の並びを整えます。
大人の歯並びが完成したのちに咬み合せが不完全であれば、マウスピースを用いた矯正処置で最終的に咬み合せ関係を整えることになります。
「成長を待ちましょう」と言って根拠なく治療介入を遅らせたり、歯を抜く方法を推奨する矯正治療は、大きなリスクを伴う治療選択です。
できるだけ正しい知識を持って矯正治療に取り組むことを推奨します。

 

歯が壊れる第三の病気 ~咬みあわせを治して歯を守ろう~

咬み合せが歯を壊す

口の中に発生する二大疾患は、歯自身を壊すむし歯と歯を支える歯ぐきと骨を壊す歯周病といわれます。
この2つの病気が歯を失うに至らしめる病気であるという評価であり、多くの歯科医師はこの病気に対処しています。
そしてまた、この2つの病気を引き起こす原因が口の中に居座る細菌であることから、この細菌を取り除くことが予防であると主張しています。
歯を失いたくない方は、この細菌を除去することで歯を守ることができると信じ、定期的に歯科医院に通院されています。
しかしこの努力もむなしく、歯を失っている方が多いのが実情です。
これはいったいなぜなのでしょうか?

歯を失うのはこの二大疾患だけではなく、歯に無理な力が加わることでも失われてしまうのです。
病名こそ無いのですが、いわゆる咬み合せが悪いという状態がこれに当たります。
咬み合せが悪いとき、

「うまく噛めない」

「噛むと上下の歯が滑る感じがする」

「歯が凍みる」

などの自覚症状が出ます。
それ以外には、歯と歯ぐきの境目が欠けるアブフラクションという症状や、歯が異常に磨り減る、ぐらぐらする、顎が痛くなったり口が開けにくくなる、顎がガクガクするなどといった状態も起こします。
これらが咬み合せが悪いことにより歯に負担が加わり続けている状態なのです。

日本の歯科医療と咬み合せ治療

歯は骨の中にその根が埋まっており、あたかも地面に杭が打ち込まれたような状態になっています。
その杭を抜こうとするとき、人は杭を揺すって杭と地面の間を広げるようにしますが、歯に無理な力が加わるとこの杭と同じような状況が歯と歯を支える骨に発生します。
このことにより歯を支える骨が壊れ、最後には歯に加わる噛む力を支えられなくしてしまうのです。
この問題を解決するための「咬み合せの治療」とは、口全体を同時に見据え、髪の毛の太さの半分程度の誤差(約30ミクロン)を見逃さないように、調整を行う必要があります。
しかもこの治療では、顎関節の正しい位置を確認しつつ、その位置で調整しなくてはなりません。
歯科医師の治療の中でも最も繊細でなおかつ多くの時間を要する治療となります。
しかし日本における保険医療制度では、壊れた歯の修理についての対処しかなく、このような厳密な咬み合せの治療を行うだけの仕組みにはなっていません。
このため一部の咬み合せに対してこだわった治療を行う歯科医師しかこの問題に率直に取り組めていないのが現状です。
このため多くの方がこの問題による歯の不調を我慢し、やがて歯を失うことになることを諦めているのです。

自律神経を診る

咬み合せを正しく治療するには、口全体を常に確認しながら管理する治療体制が必要です。
さらに咬み合せの問題を引き起こす原因の一つに食いしばりや歯ぎしりといった問題もあり、この背景には自律神経のうち交感神経が過剰に活動している問題があります。
ですから原因療法として咬み合せの問題に取り組むときには、必ず体全体の状態を確認する必要もあります。
ビタミンやミネラルのバランスのみならず栄養摂取における栄養素が糖質に偏重しているときにも交感神経の過剰な反応が起こっているからです。
歯を治したけどどうもしっくりしない、噛みにくいなどの感覚があるときはできるだけ早めに、咬み合せについてしっかりと取り組む歯科医師を見つけ、対応してもらいましょう。
失った歯が新たに生えてくることは無いのですから。

体をむしばむ、歯周病 ~健康な体は口の健康管理から~

病気が起こるということ

身体の調子が悪くなる、いろんな病気にかかる、これは本来のあるべき体の状態が保たれていないことが原因です。
この本来あるべき体の状態から外れてしまうには大きく2つの状況が関係します。
一つには本来体の中には存在しない物が体に侵入するいわゆる「感染」です。
そしてもう一つは、健康な体を維持する仕組みが壊れる、「栄養失調」です。

感染は、体の中に細菌やウイルスが侵入することから引き起こされますが、その入り口となるのが感染源であり、慢性的に人が持っているこの感染源には3つの個所があります。
それは、上咽頭(鼻とのどの移行部分)、根尖病巣(歯の根の先端部の炎症部分)、そして歯周病です。
これらの場所では慢性的に炎症が発生しており、24時間休むことなく体がそこにいる細菌や細菌が作り出す毒素などと闘っています。
その一部は血管を通じて体内に入り込み病気を引き起こします。

栄養失調は、カロリー不足ではなく必要な栄養素の不足の状態を意味します。
腸内からの栄養吸収が悪くなったり、また体内のビタミンやミネラルの不足が原因です。
現代人では、食生活に偏りがあることや、食品自体(特に野菜)が含む栄養素の量が激減しているため、食べているようでも栄養素が不足する状況が発生しています。
このことにより分子レベルでの体の機能不全が発生し、その状態が長期化することで病気へと移行してしまうのです。

歯周病がもたらす全身の病気

近年病気の実態が詳しく解明されるようになり、歯周病が感染源として様々な全身の病気に関わっていることがわかってきています。
歯周病が発生している歯ぐきの溝の中では、細菌が作り出す毒素や細菌自体の組織内への侵入に対抗して、免疫システム働き体を守ろうとします。
この免疫システムでは、炎症が起こっているところで炎症性サイトカインが作られます。
たとえばこの炎症性サイトカインが血液により運び出されると、血糖値を下げる働きをするインスリンの作用を妨げるため、血糖値のコントロールがうまくできなくなり糖尿病が悪化するのです。

また、歯周病により侵入した細菌や歯周病関連物質が血流で運ばれ、動脈内のアテローム(粉瘤)内に侵入ることにより、そこが免疫応答の舞台となります。
これによりアテローム状態を増悪化させ、動脈硬化を重症化させるとともに、虚血性心疾患を起こすなどの症状へと進行させてしまいます。
この結果、いわゆるメタボリックドミノが起こってしまうのです。

歯周病の診断と対処

「リンゴをかじると血が出ませんか」と言うフレーズの宣伝は50年ほど前のものですが、歯周病は生活習慣病で大変ゆっくりと進む慢性疾患であるため、ほとんどの方が重症化するまで気づきません。
もっとも簡便な病気の検査方法は歯科医院で歯周ポケットの深さと出血状態を確認することです。
それに伴いレントゲン写真を撮影することも有効です。
歯周病が進行すると歯を支える骨が壊れますから、その様子を確認すれば病状がわかります。
もし問題があれば、お口の衛生状態を改善し、歯周ポケット内部の細菌を取り除くことで中程度までの歯周病は改善できます。
万一進行していた場合でも、外科処置を併用すれば改善が可能な場合もあります。
まずは自分の状態の確認が第一、しっかりとした検査を歯科医院で受診されることがあなたの体を守ることに繋がります。

 

いびきを見逃すな ~睡眠時無呼吸症が引き起こす命の危険~

いびきはどうして起こるの?

豪快ないびき、周りで寝ている者はたまったものではありませんが、本人は全く意識が無く単なる厄介なものとして扱われてきました。
いったいどのようにしていびきは発生するのでしょうか?
身体には、酸素を体に取り入れるための呼吸器と栄養を取り入れるための消化器があります。
鼻から始まり肺へとつながる呼吸器と口から始まり胃へとつながる消化器は、咽頭と呼ばれる喉の部分を共有して使っています。
この咽頭部分で空気の通り道が狭くなると粘膜が震えていびきが発生します。
そしてこの空気の通り道が閉まってしまうと睡眠時無呼吸症が発症します。

消化器である口の中には舌がありますが、この舌が睡眠時に後方に沈下して押しやられることが、この気道を狭くしたり閉鎖してしまう原因なのです。
本来舌は下顎の骨の中に鎮座していますが、あごが小さく歯並びが悪くなっている現代人や、肥満などで喉周りや舌の内部に脂肪が増えた方の場合にはこの舌が後方に押しやられ、咽頭を圧迫し、空気の通り道を塞いでしまうのです。
これがいびきの犯人です。

睡眠時無呼吸症のリスク

いびきの状態が進行すると一時的に呼吸が止まる状態が発生します。
呼吸停止が10秒以上続きこの回数が一晩に30回以上発生したり、1時間に5回以上繰り返されるようになると睡眠時無呼吸症と診断されます。
この状態の方では、熟睡感が無く、日中の眠気や倦怠感が生じるという自覚症状が出てきます。
このため、昼間に様々な事故を発生させる率が健康な人の2~7倍にまで増えるのです。

さらに生活習慣病に強く影響し、高血圧・高脂血症・糖尿病・脳卒中などを引き起こし、重症な方の場合では、心筋梗塞・脳卒中の発症率が健康な人よりも30%以上上昇するという調査結果も報告されています。
ちなみに睡眠時無呼吸症の診断に基づき治療を受けていると生命保険に加入できないようになりますが、この点から見てもこの病気の命に関わるリスクの高さが推察されます。

睡眠時無呼吸症の治療と予防

睡眠外来のある医療機関に受診すれば、確定的な診断を受けることができ、治療も受けられます。
最も効果的な治療法はCPAP(シーパップ)で、就寝時にマスクを着用し強制的に空気を送り込んで呼吸を支援するという方法です。
これとは異なり歯科治療でも中程度までの睡眠時無呼吸症を解消する治療法があります。
下あごの位置を前方につきだした状態で固定するように作成したマウスピースを就寝時に装着することで、舌の後方への沈下を防ぎ、気道を確保する方法です。
いびきの解消にもつながります。

予防方法は、幼少期からの成長において顎を小さく育てないことです。
正しい食生活により健康な口腔を育成することが最も良い方法と言えます。
この観点からいうと歯を間引いて行う矯正治療はできるだけ避けるべきであり、矯正治療が必要な場合は、顎の拡大処置を行い口腔の容量をできるだけ大きくする方法を採用されるのが良いでしょう。
また、肥満も大きな原因ですから適切な方法によるダイエットも予防法の一つと言えます。
歯科治療は、歯の修理業として発展してきましたが、医科と同様に健康を守る医療として重要な役割を果たすようになってきています。

歯科医療をうまく活用し、健康で豊かな生活を手に入れていただければと思います。

総入れ歯で楽しい毎日 ~長持ちする入れ歯づくりのコツ~

入歯は2年しか持たないの?

「2年前に作った部分入れ歯が合わなくなった」

「入れ歯を支える歯がグラグラになり使えなくなった」

「入れ歯にしてから、どんどん歯が抜けていった」

こんな様子で悩んでいませんか?

多くの方が入れ歯の不調を訴え、2年ぐらい経つと新しい入れ歯を作り治しています。健康保険を利用した保険診療では、その規則により6か月間は入れ歯を新調することができませんので、この期間を心待ちにして新しい入れ歯を作り治される方もおられます。
しかし入れ歯はそんなに短期間に使えなくなるものではありません。
私の患者さんでは20年ほど前に作成した入れ歯を今もなお快適にお使いの方もおられ、作り変えをされる方の方が少ない状態です。
いったい何が違うのでしょう。

入歯を支える歯を健康にする

部分入れ歯の場合、多くの方は歯がない部分に歯を入れるという考えで入れ歯が作られます。
しかし入れ歯を支えるのは残っている歯ですから、これらの歯が健康でなければ入れ歯を支えることができません。
残っている歯には、歯周病・むし歯・歯の根の病気などが発生している場合が多く、まずはこれらの歯が健康で長持ちするようにしなくてはなりません。

つまり、歯がない部分だけを修理するのではなく、口の中全体を健康にするという考え方で治療に取り組まなくては長持ちする入れ歯は作れないのです。

動かない入れ歯の噛みあわせ

作成した入れ歯は日々食事をするために使います。その時には入れ歯に力が加わりますが、その力により入れ歯が動くと支えとなる歯と歯ぐきに負担がかかります。
この結果、支えとなる歯は揺すぶられグラグラになったり、歯ぐきと入れ歯が合わなり入れ歯が使えなくなります。
ですから入れ歯は、噛む力が加わったときに動かないように作る必要があるのです。

このためには、唇・頬・舌の位置を見極め、これらの動きと協調できる形に作ります。さらに正しい顎関節の位置を確認し、その位置で上下の歯が噛みあうように、入れ歯だけでなく残っている歯の噛みあわせも同時に整えます。最後に上下の歯のすり合わせも調整が必要です。
噛む動作をするときにスムーズに擦り合うように上下の歯を調整し、入れ歯の動きが出ないようにすることで長持ちする入れ歯が作れます。

入れ歯の留め金具

入歯の留め金具には様々なタイプの物があります。
健康保険で作る入れ歯では、ばね式の金具を使うことが一般的ですが、このタイプの入れ歯では残っている歯に対しくぎ抜きを使うような力が加わります。
これもまた歯の寿命、入れ歯の寿命を短くしてしまいます。

入れ歯の留め具では、入れ歯を使っていることがわからないような細工をした留め金具や、強い力で噛む事にも耐えられるような設計のものがあります。
また留め具をひっかける歯にも、大きな力に耐えられるような細工が必要です。
留め具がかかる歯は「鉤歯(こうし)」と言いますが、この歯には本来の自分自身が噛むときに請け負う仕事に加え、入れ歯を支える仕事と入れ歯に加わる噛む力を支える仕事が加算されます。
このため大変傷みやすいのです。多くの場合は、冠をかぶせて隣同士の歯を連結し補強します。このような配慮が歯と入れ歯を長持ちさせるのです。
歯を失い、入れ歯を作りかえるごとに入れ歯の噛む能力は低下します。
あなたの快適な生活を楽しむために、早い段階でしっかりとした入れ歯を作るようにしましょう。

総入れ歯で楽しい毎日 ~噛める入れ歯の3要素~

噛めない入れ歯

すべての歯を失ってしまうと入れ歯を作ることになります。
この入れ歯は自分の歯とは違って噛む力を歯ぐきで支える構造になっています。
さらにすべての歯は「床」と呼ばれる失った歯ぐきを再現した土台部分でつながっているため、どこかに力が加われば、他のところが動くという特徴を持っています。
たとえば右側で噛んでも左側が動きますし、前歯で噛んでも奥歯が動くといった状態です。
このように咬む動作をするたびに入れ歯が動くことにより、歯ぐきを傷め、噛めない状態を引き起こしているのです。

入れ歯が動くと、床と歯ぐきとがこすれた場所で痛みが出ます。痛みが出ると力を入れて食べ物を噛むことができません。
そのため何とか噛める場所を探して入れ歯を使うようになるのです。しかし部分的に無理な力が加わり続けると歯ぐきの下にある骨が壊れて痩せてしまい、さらに入れ歯が合わなくなってしまうのです。

ですからよく噛める入れ歯を作るうえで大切なことは、噛んだ時に動かない入れ歯を作ることなのです。そのためには3つの要素を忠実に守った入れ歯づくりが必要です。

正しい顎の位置で入れ歯を作る

下あごは左右の耳のやや前方の顎関節で上顎とつながっており、この関節は様々な方向へ自由に動くことができるのが特徴です。
しかし大きな力で噛むときには、この顎関節の最上部で最も収まりの良いくぼみに左右の下顎の骨が収まり、噛む力を支えます。
ですからこの場所を見極め、この場所で上下の歯が噛みあうように作ることが重要となります。
入れ歯を作るとき歯科医師が噛んでくださいという指示により噛む位置を決めていますが、単純なこの方法だけでは正しい位置からずれてしまいます。

顎の位置を特定する専用の器具を用いて正しい位置を決めることが必要です。

噛む力を支える場所に
入れ歯の歯が並んでいる

歯を失った口の中には、歯ぐきの土手があり、その外側には唇や頬、その内側には舌があります。
この中に入れ歯が収まるのですが、この入れ歯の納まる場所が重要です。
唇・頬・舌の位置を邪魔することが無く、そのうえで入れ歯に並んだ歯の位置は顎の骨の土手に対してまっすぐに力が加わるように並べることが大切です。

このような位置に歯を正しく並べることにより、大きな力で噛んだ場合でも入れ歯がずれることが無くなり、痛みを起こすことが無くなります。

スムーズに動く
すり合わせを調整する

人が食事をするときに行う「噛む」という口の動きは、単純な上下運動ではありません。
臼歯と呼ばれる奥歯では、食べ物をすりつぶすような左右の動きをします。
牛が草を食べるときには顎を左右に滑らせるように動かしますが、これが奥歯を使った噛み方です。
人によりその動き方は異なりますが、この動きに合わせてすべての奥歯の形がスムーズにすり合わせられるように調整することが大切です。
このような歯の形に調整が完了すると上下の入れ歯を噛みあわせた状態で下あごを左右に動かしても上顎の入れ歯は動きません。
これら3つの要素を守れば快適な食事が楽しめるようになります。
なんでも食べれる快適な入れ歯で、楽しい毎日をお過ごしください。