歯磨きだけでは歯は守れない ~予防歯科に欠かせない咬み合わせの管理~

予防歯科の条件

「人が生きる」このために欠かせないのが歯であり、口の健康です。ヒトの体を構成する60兆個ともいわれる細胞は、口を使って食べた物から栄養を摂り込み、生命を維持しています。

ですから歯を失うことなく、口を健康に保つことこそが、健康な長寿の秘訣です。
そのために予防歯科を掲げ、患者さんの口の健康管理を行う歯科医院が増えました。しかしながら定期健診で歯石を取り、口の中のクリーニングを続けているにもかかわらず、歯が悪くなり抜かざるを得なくなる方が絶えません。

これは歯を失うに至らしめる過剰な力が発生しないような取り組みが予防歯科の内容に於いて提供できていないからです。

多くの歯科医院では口の中の衛生管理を行うことが歯を守る予防歯科と考えています。
しかし衛生管理で口の中の細菌を減らす支援は、むし歯や歯周病に対してのみ有効で、過剰な力で、歯が割れたり、欠けたり、磨り減ったり、グラグラになってしまう、歯に加わる力の問題には対処できないのです。
力の問題で歯が壊れないようにするには咬み合わせを整えることが必要です。

ですから、正しく予防歯科を行うとするならば、咬み合わせの管理を予防管理のプログラムに取り込まなくてはなりません。

歯医者も知らない、歯に加わる力の管理の大切さ

一部の歯科医師は衛生管理により口の中の細菌を減らせば歯を失うことが無いようにできると思い込んでいます。
しかしこのような歯科医師を主治医にした場合には、力の管理をしてもらうことはできない訳で、歯に加わる力の管理ができていなかった場合には、結果歯を失うことになります。
歯は食物を摂取し、噛み砕いて胃に運ぶという消化器官としての最初の仕事をします。
この咬み砕くという動作では、大きさが1cm四方の小さな歯に最大で100㎏以上の力を加えることとなります。

このため、顎関節の正しい位置で歯の垂直方向に正しく力が加わるようにすることでこの力をしっかりと受け止めなければなりません。
また擦り合わせるような動きでは、前歯が顎の動きを誘導し、奥歯には引っ掛かりが無く歯を揺さぶるような力が加わらないことが重要です。

このような上下の歯の関係性は咬合と呼ばれ、その良し悪しで歯への負担は大きく変わってしまいます。この咬合が適切にコントロールされていなければ歯は壊れます。

歯に加わる力を管理する方法

歯科医師はこの力により歯が壊れることを防ぐため、歯の向きを変えたり、擦り合わせを調整したり、磨り減りにより失われたエナメル質を回復させたりします。

これが歯を守ることに繋がります。

歯の向きを変える方法は、矯正治療と呼ばれる方法です。
一般的には見た目を良くするために歯並びを整えることが矯正治療と考えられがちですが、長く使い続ける歯を力によって壊れにくい状態にするためには、歯の位置を動かす治療手段は欠かせません。

擦り合わせを整えるのは咬合調整と呼ばれます。

歯の表面は1.5mm程のエナメル質におおわれていますから、このエナメル質の範囲内であれば歯科医師が歯を削ることにより過剰な上下の歯の接触関係を改善することができます。
磨り減りのためにエナメル質が失われたり、薄くなっている場合には、歯に冠をかぶせることによって歯の形を整え治し、上下の歯の接触関係を改善します。
不良な力や長期の歯の使用により傷んだ歯を長く使えるように改善するときに行う修復による治療法です。

これらの方法を組み合わせ、患者さんごとに安定した咬合を確保することが、力により歯を失うことから歯を管理する具体的な方法です。

メンテナンスと予防歯科

主治医により安定した咬合の状態を確保してもらって
も、そのまま放置してしまうと歯が壊れます。平素の歯
の利用により、歯は磨り減り、微妙に動いているからで
す。このためメンテナンスにより定期的に安定した咬合
状態が維持できているかを確認することが重要になりま
す。
メンテナンスとは、歯垢や歯石の除去を行うクリーニ
ングと咬み合わせの状態を適正に保つためのチェックと
微細な咬合調整を組み合せて行うことが必須であり、こ
の支援を行う歯科医療が本来の歯を失わない支援である
予防歯科と言えるのです。
取り換えのない歯を大切に使い続けるためには、咬合
の事に関してもしっかりと対処してくださる予防歯科の
先生を選択することが重要となります。もし現在の主治
医が咬合の管理をしっかりとしてくれていないように感
じたならば、一度「私の咬み合わせは大丈夫ですか」と
尋ねてみましょう。

歯を失わないための治療の手順 ~歯科治療における原因療法~

 歯が悪くならない、
これって歯性の問題なの???

 歯を悪くしたくない
 入れ歯にはなりたくない
 しっかりとおいしく食事がしたい
 美しい口元で若々しくいたい

このような思いはすべての患者さんがお持ちです。しかしその期待どおりに歯を使い続けている人とそうではなく何度も歯医者さんに通っても歯が悪くなり続けている人もいます。
「歯性が悪いんだ」と諦めている方も多くおられるようですが、歯を悪くせず快適に使い
続けている人とはいったい何が違うのでしょうか?

歯を守る「原因療法」による歯科治療

従来の歯科医療は、悪くなった歯を治す、歯が無くなったところに歯を入れる、
といった修理を行うことが治療の中心でした。
このように発生した問題の改善を行うことにポイントを置いた治療(症状を治す)を対症療法と言います。
これでは歯の修理をしなくてはならなくなった原因が取り除けていないため、また次の問題が発生し、これが繰り返されると歯を失うことになります。
これに対し歯を悪くせず快適に使い続けている方では、この歯を失う病気の原因に
着目し、その原因を取り除くことから始めています。
これが歯科治療における原因療法で、この取り組みが歯を健康に保ってくれます。
ではこの原因療法は、どのような手順で進められるのでしょうか?

① 精密な検査
まず最初にすることは、歯を削ることではなく、現在のお口の中にどのような病気が発生しているのかを正しく認識することであり、そのために精密な検査をします。
歯を失う病気には、虫歯、歯周病、不良な治療、かみ合わせの問題という4つの種類がありますが、これらの病気を正しく理解することが基本です。

② 原因の除去
問題が明確になれば、病気の原因を取り除くことから始めます。虫歯や歯周病は口の中の細菌が原因であり、この細菌を取り除くにはご自身の歯磨き習慣を改善することと専門家によるクリーニングが必要です。これは予防プログラムとして展開されます。
また、かみ合わせの問題は歯に加わる力の調整であり、正しい顎関節の位置で均等に適正な力が加わるようにしなければなりません。これは予防咬合調整として展開されます。

③ 総合治療
次に行われるのが治療となります。
治療では部分的な補修をするのではなく、お口全体で一つの臓器であるという考えのもとに、バランスを整えながら全体にわたる治療を同時に行います。
これを総合治療といます。総合治療では、不良な治療が発生しないよう良質の材料を用い精密な治療が行われます。

④ メンテナンス
総合治療により健康なお口が回復できたならば、その状態を維持する取り組みを行います。
これがメンテナンスです。
患者さんの様子に合わせて個別のプログラムを計画し、年に2~6回程度のペースで実施されます。
歯が悪くならない方というのは、このような手順の原因療法による医療を受診されているのです。