歯科医療が支える健康寿命 ~予防歯科最前線 3DSによる病原菌管理~

歯を失う病気

誰でも歯を失いたくはありません。
歯を失うと今まで何気なく食べていたものが食べられなくなります。
また人前で笑うことも躊躇しなくてはならず思わず口元を隠すしぐさが入ってしまいます。

それどころか、歯を失う病気の影響で命を脅かすこともわかってきました。
これらの病気とは縁がないことが望ましいですね。

さて、歯を失うに至らしめる病気は4種類ありますが、そのうちむし歯と歯周病は口の中にすみつく細菌が原因で発生します。
口の中には500~700種類ほどの細菌がすみついているといわれますが、そのうち虫歯や歯周病を引き起こす原因菌はその一部だけです。

これらを含む細菌は細菌叢(口内フローラ)という社会を構成し、その中ではそれぞれの菌が一定の割合ですみついているのです。

歯周病とむし歯の原因菌

むし歯や歯周病などの病気を引き起こす原因菌は人体にとって有害であるため悪玉菌と呼ばれますが、これに対し人体には悪影響をもたらさない菌や有益な影響を及ぼす菌を善玉菌と呼んでいます。
実は病気の発症にはこれら悪玉菌と善玉菌の比率が問題であることがわかってきました。

例として2人の違ったタイプの細菌叢を持つ方を比較してみましょう。

Aさんは悪玉菌と善玉菌の比率が50:50ですがBさんは10:90だとします。
Aさんは毎日一生懸命歯磨きをするので菌の総量は100、Bさんは歯磨きが苦手で菌の総量はAさんの3倍の300でした。
しかし病原性を持つ悪玉菌の量は、Aさんが50でBさんが30となり、歯磨きができていないBさんのほうが病気を発症しにくいということになるのです。

最新の予防歯科手法

従来の歯科医療では、菌の量を減らすことが予防の基本とされてきました。

歯科医院では歯磨きの方法からトレーニングを行い、専門的なクリーニングも行って菌の量を問題が出にくいレベルまで減らしてきました。
このことは確かに一定の成果を出していますが、それでも病状が進行する人が残りました。つまり口の中の細菌叢において悪玉菌の比率が高かったのです。

このような菌の比率は一度確定するとなかなか変化しにくいとされてきましたが、一定の除菌介入直後に善玉菌を増やすことでこの細菌叢の比率が変化するという報告がなされ、この考え方を取り込む治療法が医科・歯科の領域で導入されたのです。

人の身体は細菌との共存関係により維持されています。
ですから歯磨きなどの手法により細菌の量を減らすには限界があり、悪玉菌ではなく善玉菌との共存関係を構築していくように配慮することが自然であるともいえるでしょう。

3DSによる歯科細菌性疾患の予防法

3DSとは口の中の悪玉菌によるリスクを判定したうえで、一定の除菌処置を行う手法です。
その方のお口の菌の状態に応じた薬剤を作用させるため、専用トレーを作成し、まずは悪玉菌の量を減らします。
それと同時に善玉菌の菌株をタブレットなどによって補給し、善玉菌と悪玉菌の構成比率を変化させ、むし歯や
病の発症リスク自体を軽減する方法です。

当然適切な治療がなされていることが前提ではありますが、むし歯や歯周病の改善がなかなか進まない方、しっかりとお口の健康を維持されたい方は一度試してみるとよいでしょう。

歯科医療が支える健康寿命 ~命を脅かす歯周病~

生きるということ

どなたにも公平に命の終わりは訪れます。生き物である限りこれは避けることができない現実でしょう。
しかしその時までをどのように過ごすかは自分の意志で変えることができます。

健康でやりたい事が自分の力でやりきれる人生を謳歌するためには、健康であることが基本です。
その健康は、体に感染がなく、適切に栄養が摂取でき、十分な酸素を取り込める状態により確保され、これらはすべて口の健康と深い関係を持っています。
ですから健康に生きるということは、口の中に問題がない状態によって手に入れることができるのです。

歯周病の先にある病気

口の健康管理を行う上で注目されるのは歯周病です。
歯周病は単純に歯を失うという病気ではなく、その病気が発生している個所において慢性の炎症を起こしていること、さらにはそこが身体の中への感染ルートになっていることが問題です。
このことによりほかの病気を引き起こす原因となっています。

歯周病の病変部では炎症性サイトカインが産生され体中に広がるだけでなく、同時に歯周病菌などが血管内部に侵襲します。
これらが血管の細胞を傷つけ炎症を起こし、さらにそこにはコレステロールなどが付着してアテロームと呼ばれるこぶを形成します。
このようにして動脈硬化が発症し、血管が詰まると脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしてしまうのです。
また炎症性サイトカインはインスリンの効果を抑制するため糖尿病が発症したり悪化したりします。
ほかにもリウマチや骨粗鬆症、妊婦さんでは早産の原因にもなることがわかっています。
ですから歯周病だけを考えるのではなくその先で発症する病気のことを考え、それらの病気からあなたの身体を守るという観点で歯周病と取り組まなくてはなりません。

なぜ歯周病が改善しないのか

日本人の90%もの人が歯周病にかかっているという報告があり、その症状が重篤化したことで悩んでいる方は大勢おられます。
その多くの方は歯周病がどのような病気であるのかを知りません。
また歯周病に罹患していることに気づいていない方もおられます。
これは歯周病がサイレントディジーズと呼ばれ気づかないうちに徐々に進んでしまう病気だからです。
歯周病を克服するためには、正しい知識を持ち正確に自分の状況を評価することが不可欠です。
そのためにはしっかりと歯周病と向き合ってくれる歯科医師を主治医に持ち、精密な検査を行って病状を正確に把握し、着実に治療を進めることが必要です。
また治療以外に生活習慣を見直すことも必要で、口の中の衛生管理や食生活の改善の支援も主治医から受けなくてはなりません。
さらに最新の予防方法では、口の中の歯周病菌の比率を減らす細菌の入れ替えを進める方法(3DS)も取り入れられるようになり有効な対処方法でもあります。
歯周病を放置した時に失うのは歯だけでなく、口が健康であることにより支えられている健康な身体、そしてその体がもたらす豊かな生活さえも失うということを理解しましょう。
そしてあなたの生活を守るために、適切な主治医を持ち、最善の治療を受診することが必要です。