いい入れ歯を作ろう ~基本はコミュニケーション~

入れ歯での悩み

「痛くて入れ歯を使えない」

「入れ歯が外れてしゃべりにくい」

「入れ歯を支える歯が次々に抜けてしまう」

「見た目が悪く顔つきが変わってしまった」

入れ歯でも苦労なく快適に過ごしている方がいる反面、悩みが絶えず日々憂鬱な毎日を過ごしている方がおられます。
この違いは何によるのでしょうか?

入れ歯でお困りの方がお越しになる皆さんに共通した特徴があります。
それは、困った状態を我慢している、入れ歯の不具合を歯科医師にうまく伝えられていない、何度か調整に行ったがそれが迷惑なのではないかと考え行かなくなる、不具合を申し出たところ歯科医師から不機嫌な顔をされたり怒られた、といった点です。

つまり治療を担当する歯科医師と適切な意思疎通=コミュニケーションが取れていないという点です。

治療前の相談

入れ歯治療を始めるに当たっては、

「先生にお任せすればちゃんと良くしてくださる」という考え方を捨てなければいけません。
治療を受ける方それぞれで考え方、困りごと、身体の特徴、治療に当たり優先したいこと、生活習慣、体調など、すべてが異なります。
そこで歯科医師はこれらの事をしっかりと理解したうえで、患者さん個々に最適な状態は何かを模索し、より良い結果を導く方法を検討し、その結果についてお知らせをすることが重要となります。
患者さんの期待どおりの治療結果を導くことは最高の事ではありますが、さまざまな事情から期待に添えないこともあるわけです。

ですから治療に先立ってどのような状態を目指すのかを良く話し合うことが重要となるのです。

問題解決の手立て

入れ歯治療では成功のためにいくつかのポイントがあります。

その中で最も重要な要素は、正しい顎の位置で均一に上下の歯が接触するように咬みあわせを作り上げるということです。

入れ歯で悩む多くの方は、歯を失ったその部分に入れ歯という歯を入れる治療を受けておられます。
しかし口は個々の歯で仕事をするのではなく、口という器官全体を使って、食物を食べる、話をする、笑顔を作るといった仕事をしています。
このため常に口全体を見渡した配慮が必要であり、部分的な処置では成功しないのです。

歯科医師はこの治療の必要性を正しく患者さんに伝えなければならず、この点においても適切な説明が欠かせません。

微妙な調整

精密な歯型をとり、きれいな歯を作ったとしても実際の口の中は歯型の模型とは異なります。

歯ぐきには弾力がありますが、場所によって歯ぐきの厚みが異なります。
このため咬みこんだ時の歯ぐきのひずみ量も異なり、その誤差の調整が必要です。
また円滑な顎の動きを妨げない上下の歯の接触関係は、最終的には口の中でしか調整できません。
安定して快適に使える入れ歯を作るためには、入れ歯が完成してからの調整が不可欠なのです。

調整を行うに当たって、不具合内容やその場所の報告は患者さんの役割です。
遠慮せず不具合の状況を正しく報告しながら歯科医師と患者さんが二人三脚でより良い状態を目指していくのです。

このような患者さんと歯科医師の適切なコミュニケーションはより良い入れ歯を作成するために最も必要なことです。
患者さんは遠慮せず何でも話す、歯科医師はしっかりと患者さんの訴えに耳を傾ける、これは両者の人間関係の問題に関わりますから、適切なコミュニケーションが可能となる自分に合った歯科医師を選ぶことも重要といえるでしょう。

 

「長持ちする歯科治療」~完全歯科医療の概念~

私が出会ったアメリカの歯科医

卒業後3年の勤務医生活を終えた私は、翌年に控えた自らの歯科医院の開業を前にアメリカへと留学しました。
その目的は、完全歯科医療をめざした診療を行っている歯科医師たちに会い、またその歯科医師たちが師事する咬合学(かみ合わせの理論)の大家P.E.Dawson先生のセミナーを受講することでした。
当時の彼は臨床歯科医師でありながらフロリダ大学での研究、さらには全世界の歯科医師を対象とした卒後研修セミナーを開催しているという、異色の活動を行う歯科医師でした。

患者さんに行う歯科治療の理論的説明

彼は完全歯科医療の概念に基づき、診査診断を行い、そして発見された問題を解決することによって、長期にわたり壊れない長持ちする歯科医療を実践していました。
その治療について患者さんに行う説明を、彼の著書[オクルージョンの臨床:日本語訳版]の中で以下のように紹介しています。

「あなたが口を健康にし、それを維持しようとするならば、われわれは次の2つの事を達成しなくてはなりません。

1、あなたの口の中で完全な清掃ができない場所をまったくなくす。

2、破戒的にならない程度まで、あなたの口の中のすべての咬合ストレスを減少させ
る。

これらの2つは私(歯科医師)の責任です。

あなたの責任は、あなたの口を完全に清掃に保ち、もし不均等な咬合ストレス(かみ合わせに違和感を感じること)が発生したら、それを正常に治すことができるように、私たちに知らせることです。
適切な食事と運動を続け、全身の健康を最高水準に維持することも、あなたの責任です。
もし私とあなたが各自の責任を完全に果たせば、あなたの歯を、あなたが必要とする限り守ることができるはずです。

治療が長持ちする訳

この患者さんへの説明文章をもう少しわかりやすく読み解いてみましょう。歯が使えなくなるのは、歯を失うに至らしめる病気が発生するからです。

その病気は、

①むし歯 ②歯周病 ③かみ合わせ です。

これら病気の内、むし歯と歯周病は口の中に住む細菌が原因で起こります。
ですから「完全な清掃ができないところをなくす」、「口を完全に清潔に保ち」という言
葉は、この2つの病気の原因である細菌を完全に取り除ける状態にするということを意味しています。

次に、かみ合わせという病気ですが、これは上下の歯の接触の仕方、顎の動きによる歯のすり合わせにより、歯に無理な力が加わって、歯が欠けたり、磨り減ったり、またグラグラになることで使えなくなることです。
正しい顎関節の位置で咬みあわせが作られていないとか、無理な咬ませ方をしているなどが原因です。
ですから、「咬合ストレスを減少させる」という言葉は、この不良な咬みあわせにより歯が壊れることから歯を守る対策を行うということを意味しています。
このように病気の原因から取り除くことで、新たな病気が発生しないようにすることが、歯を悪くしないと言い切っているのです。

完全歯科医療を行うには

治療結果が長持ちし、いつまでも快適に歯が使い続けられるためには完全歯科医療の概念に基づき治療を受けることです。
そのためには正しい診査・診断が不可欠となります。治療にあたっては、気になるところからやみくもに始めるということをしてはいけません。
口全体が一つの臓器ですから、総合的に評価を受けてから治療を受けてください。

それが何度も治療をやり直すということを防ぐ唯一の方法です。

治した歯が悪くなるのはなぜ?~歯を失うことなく、一生快適に使うための手順~

あなたの家が火事になりました!!

大変です。
あなたの家の台所から煙が吹き出し、家が火事になりました。
あなたはどうしますか?

①火事になって家が壊れているのだから、修理をしな
くてはいけない。だから大工さんを呼んで壊れてい
るところを治してもらおう。

②まずは家が壊れている原因である「火」を消さなく
てはならない。だから消防署に連絡して火を消して
もらおう

答えは簡単!

火事になれば小学生でも119番に電話をして、消防隊に来てもらい火を消すということはすぐにわかります。
これが誰もが考える当たり前のことですが、この当たり前のことを基準としてお口の病気のことを考えてみましょう。

今、歯医者さんで行われていること

口の中に穴が開きました。おそらくむし歯です。
痛みはさほどではないのですが、冷たいものが凍みます。
食事をすると食べ物がつまり、咬むと少しの痛みを感じます。虫歯じゃないかと感じた方はそこで歯医者に出かけ、問題解決へと取り組みます。

「先生、穴が開いてむし歯だと思うのですが?」

「どれどれ、見てみましょう」

「大きな穴が開いてます。虫歯ですね。では治療をしま
しょう」

と伝えられ、おもむろに麻酔をしてもらうと、そのあとはお決まりの、キィーン!、ガリガリ!。
虫歯部分を削り終えると、あとは型取りをして次回には作った歯が入ります。
歯を留めるときにはセメントを入れた冠を、カンカン! とたたいて浮き上がらないように装着すれば完成です。
でもこの様子何かと似てませんか?
そうそう、大工さんが家を修理するときの音とそっくりです。
実は歯の治療は、口の中で大工仕事をしているようなものなのです。

当たり前が、当たり前でない、歯科治療

勘の良い方は気づかれたのではないでしょうか?

口の中に虫歯ができるというのは、歯が壊れていることであり、口の中で火事が起こっているのと同じです。

ただし違いは、「火」ではなくて「虫歯菌」が原因であるという点です。
家が火事ならば、まずは火を消し、そのうえで壊れたところを大工さんが修理します。
ですから口の中でもまずは虫歯の原因、つまり虫歯菌という火を消さなくてはなりません。

しかし、歯医者さんでは火を消す前にキィーン!ガリガリ!カンカン! という大工仕事が優先されているのです。
火を消さずにその横で大工さんがいくら家を治しても、火はまた隣に燃え広がり、また家が壊れます。

実はこれと同じことが口の中で起こっており、次から次へと歯が悪くなるのです。

つまり、壊れた歯を修理する対症療法が歯科治療の主流であり、根本から治す原因療法として取り組んでいないことが治した歯が悪くなる理由なのです。

正しい治療の手順

歯を失わないための正しい治療の手順は、3つのステップで進められます。

まず最初にするべきことは、歯を失う原因である4つの病気【むし歯・歯周病・不良な治療・かみ合わせ】の原因を取り除くことです
このことにより今問題がない良い歯が助かり、合わせて病気の再発も防がれます。

2番目のステップは、お口全体を総合的に高品質で治すことです。治療は1本ずつ行ったとしても、歯を使うときは口全体で使います。
バランスよく治すことが重要です。

そして最後のステップは、メンテナンスをすることです
歯医者さんの定期健診は、早期発見・早期治療が目的ではなく、手に入れた健康な状態を維持するために行うという考え方で受診することが重要となります。
このような手順を正しく実践すれば、歯は人生の終わりまであなたの豊かな生活を支えてくるのです。

歯を失わないための治療の手順 ~歯科治療における原因療法~

 歯が悪くならない、
これって歯性の問題なの???

 歯を悪くしたくない
 入れ歯にはなりたくない
 しっかりとおいしく食事がしたい
 美しい口元で若々しくいたい

このような思いはすべての患者さんがお持ちです。しかしその期待どおりに歯を使い続けている人とそうではなく何度も歯医者さんに通っても歯が悪くなり続けている人もいます。
「歯性が悪いんだ」と諦めている方も多くおられるようですが、歯を悪くせず快適に使い
続けている人とはいったい何が違うのでしょうか?

歯を守る「原因療法」による歯科治療

従来の歯科医療は、悪くなった歯を治す、歯が無くなったところに歯を入れる、
といった修理を行うことが治療の中心でした。
このように発生した問題の改善を行うことにポイントを置いた治療(症状を治す)を対症療法と言います。
これでは歯の修理をしなくてはならなくなった原因が取り除けていないため、また次の問題が発生し、これが繰り返されると歯を失うことになります。
これに対し歯を悪くせず快適に使い続けている方では、この歯を失う病気の原因に
着目し、その原因を取り除くことから始めています。
これが歯科治療における原因療法で、この取り組みが歯を健康に保ってくれます。
ではこの原因療法は、どのような手順で進められるのでしょうか?

① 精密な検査
まず最初にすることは、歯を削ることではなく、現在のお口の中にどのような病気が発生しているのかを正しく認識することであり、そのために精密な検査をします。
歯を失う病気には、虫歯、歯周病、不良な治療、かみ合わせの問題という4つの種類がありますが、これらの病気を正しく理解することが基本です。

② 原因の除去
問題が明確になれば、病気の原因を取り除くことから始めます。虫歯や歯周病は口の中の細菌が原因であり、この細菌を取り除くにはご自身の歯磨き習慣を改善することと専門家によるクリーニングが必要です。これは予防プログラムとして展開されます。
また、かみ合わせの問題は歯に加わる力の調整であり、正しい顎関節の位置で均等に適正な力が加わるようにしなければなりません。これは予防咬合調整として展開されます。

③ 総合治療
次に行われるのが治療となります。
治療では部分的な補修をするのではなく、お口全体で一つの臓器であるという考えのもとに、バランスを整えながら全体にわたる治療を同時に行います。
これを総合治療といます。総合治療では、不良な治療が発生しないよう良質の材料を用い精密な治療が行われます。

④ メンテナンス
総合治療により健康なお口が回復できたならば、その状態を維持する取り組みを行います。
これがメンテナンスです。
患者さんの様子に合わせて個別のプログラムを計画し、年に2~6回程度のペースで実施されます。
歯が悪くならない方というのは、このような手順の原因療法による医療を受診されているのです。

はっきりさせよう治療計画 ~あなたの口はどうなるの?~

治療前に必ず確認すること!

お任せ医療・お仕着せの医療が当たり前のようになっている日本の保険制度による
歯科治療ですが、患者さん中心の医療の時代を迎えた現在では、どのような治療で
あってもしっかりと治療の前にその内容を確認することが必要です。

今回は、治療前に確認すべき項目とその内容について考えて見ましょう。

① 治療の方法
病気の診断の報告を受けた後、それに引き続き治療の方法をどのように選択するかは重要なポイントで、一つの病気に対してもいくつかの治療方法があり、それぞれ
の方法には利点と欠点があります。また、病気によっては治せる限界もあります。
ですからさまざまな方法の中から、あなた自身の希望に合った結果につながるであろ
う治療方法を見つけ、自分自身で納得して選択されるこ
とが必要です。

② 治療のスケジュール
治療の方法を決定するに当たっては、時間や期間の問題も重要です。
たとえば歯医者さんは嫌いだから一回の治療時間が長いことは耐えられないという方は、1回の処置時間を短くし、その代わりに通院回数を増やし治療することになります。しかし仕事が忙しく時間が取れない方や、効率よく治療を進め早く終わらせたいという方の場合には、一回当たりの治療時間を長く確保し集中的に治療して通院回数を
減らすことが必要です。
ちなみに一回の治療時間を3時間以上、場合によっては1日をかけて、数回の来院で治療を完了させることができる場合もあります。このことにより治療が完了するまでの期間を短くすることもできるのです。これらのことは事前に主治医と十分に相談し決めることが賢明でしょう。

③ 治療の費用
歯科の治療には、腫れた歯ぐきや歯の痛みを取り除くといったいわゆる病気を治す
処置と、虫歯で空いた穴を埋めたり失った歯を新たに作るといった壊れた機能を取り
戻す治療とがあります。

そしてそれらの処置を行う場合、その手順やその時に使う器具・機械、またその治療
方法によってもさまざまな方法が選択できます。

これらをどのように組み合わせて治療を行うかということで治療費用は決まります。
健康保険だけではできない方法でも、歯にとっては良い結果をもたらす方法もあり、
これらを比較検討して治療方法を決定し、事前にその治療費用を明確にしておくことも重要です。

今、日本の歯科医療に欠けているものr

お口の中に発生する病気は、生活習慣病であり、また慢性的に進行する病気です。
しかしその治療に当たっては、単純に機能を回復するだけではなく、その回復の仕
方において個人個人の好みが大きく表れてきます。
一般的な医科の治療では、病名に応じて一定の治療方法で展開されるのに対し、
歯科の治療では治療手技や手順また治療に用いる材料において様々な選択方法が
あるため、治療方法は多種多様になります。

たとえば1本の歯を失ったとしましょう。その失った歯への対処には

 ①そのまま放置する

 ②取り外し式の入れ歯を用いる

 ③失った歯の両側の歯に冠を入れてその歯をつなぐブリッジとする

 ④失った部分に人工歯根【インプラント】を入れる

という方針があり、それぞれの方法において異なる設計と材料の選択があり、
具体的な治療方法は10種類以上にもなります。

この様な選択肢の中から自分にあったものを選ばなくてはならないわけであり、
その手順をどなたでも無理なくできるということが必要です。

しかしながら現在の日本の歯科医療ではこのような選択をうまく行えない状況に
なっています。

自分にあったより良い歯科治療を受けるため、治療にあたってはしっかりとその内容を確認するようにしましょう。