歯周病は治るの?治らないの? ~歯周病改善の正しい手順~

歯周病はどんな病気?

歯周病と診断を受けてから年を追うごとに歯が少なくなり、そのたびごとに治療を繰り返している。こんな状態になっていませんか?

歯周病は歯と歯ぐきの境目に付着した歯周病原因菌やこの細菌が作り出す毒素が歯ぐきの中に侵入することで、身体の免疫機能が働き、その結果として歯を支える歯茎や骨を破壊してしまう病気です。
さらにこの病気の恐ろしい点は、口の中の問題だけでなく糖尿病や脳・心筋梗塞といった血管の病気を引き起こすことです。
つまり命に関わる病気だということです。

この病気の治療では以下のような適切な手順を確実に実践することが必要です。

細菌を取り除く

歯周病の原因は口の中の細菌であり、歯周病の治療ではこの細菌を取り除くことが最も重要で基本的なこととなります。

細菌を取り除くには自分自身で行う歯磨きと、専門家が行うプロフェッショナルクリーニングとがあります。

歯磨きは、個々の患者さんの歯の状態に応じた清掃具の選択とその使い方を習得し、日々実践していただくことです。
プロフェッショナルクリーニングは歯石除去のほか、患者さん自身では清掃できない
箇所について清掃を手伝うことです。
場合によっては薬剤を併用したり、専用の器具を利用します。

歯ぐきと骨の形を整える

歯周病で骨が破壊されている場合は、歯周ポケットと呼ばれる管理できない歯ぐきの溝が残ります。
この場合は歯周外科処置によりポケットを取り除くとともに、骨の形を整えたり骨を再生させたりします。
歯並びが悪い場合には歯の位置を移動させ、また適合性の悪いかぶせや詰め物がある場合もそれらを取り換え、清掃性の高い状態に口の中の環境を整えます。

栄養状態を整える

歯周病の治療では損なわれた組織を回復させるため必要な栄養の補給が必要です。ビタミン・ミネラルを含めた五大栄養素の体内状況を確認し、食事を改善したりサプリメ
ントや点滴を用いて不足している栄養を補給します。

咬み合わせを整える

最終的に行う処置は咬み合わせです。適正な顎関節の位置で上下の歯が接触し、さらにはスムーズに動けるように整えます。
ダメージを受けた骨の状態に合わせて咬み合わせにより加わる力を負担できる状態にまでコントロールすることが、歯の維持には不可欠となります。

この後に行われるのがメンテナンスであり、健康を維持増進するために省くことはできません。
もしあなたが歯周病を克服できていないのであれば、これらの正しい歯周病の治療プロセスのどこかに不足があります。

セカンドオピニオンを受け、不足の部分を確かめて改善を行うことがあなたの歯と健康、そして豊かな生活を守ることに繋がります。

口呼吸を治そう ~顎の育成と呼吸~

正しい呼吸と健康

人間が健康に生活するためには、

①正しく栄養を摂取する
②酸素を取り込む
③感染を防ぐ

という3つの要素が重要です。

そこで今回は酸素を身体に取り込むための呼吸についてお話ししましょう。

酸素を取り込むための呼吸では肺に空気を吸い込んで行います。
この空気は鼻から取り込まれ喉(咽頭)から気管を通って肺にたどり着きます。
この咽頭部が塞がると必要な空気が肺へと運ばれず睡眠時無呼吸症という病気を発症してしまいます。
睡眠時無呼吸症では、心筋梗塞や脳卒中といった病気の発症率が健常者の2~5倍になるとも言われており、無呼吸症を引き起こさないことが健康であるために必要な要件となります。

睡眠時無呼吸症は咽頭部が塞がれることにより発症しますが、これには肥満あるいは小さな顎という2つの問題が関係しています。

このうち小さな顎になることは口の成長と密接に関係しており、その口の成長を妨げるのが口呼吸なのです。

歯並びと呼吸の関係

人は鼻だけではなく口からも空気を取り込むことができます。
日常の生活では鼻を使って生活し、運動時など多量の酸素を必要とするときのみ口を使うのが正しい使い方です。

鼻で呼吸をする場合、閉じられた口の中では舌が上顎(口蓋)に密着しています。
このことが上顎の左右及び前方向への成長を促します。
さらに上顎がしっかりと成長すると口蓋は下方に下がり、このことにより口蓋の上にある鼻腔は大きくなり、鼻呼吸がしやすくなります。

しかしながら日常の呼吸も口で行うようになると口の中に常時空気の通り道を確保しなくてはならず、舌が上顎に接触しません。
このため顎は小さくなってしまい鼻呼吸もしにくくなってしまいます。

適正な大きさに成長できなかった顎では歯並びが悪くなり、舌が鎮座する口自体の容積も小さくなります。
舌は筋肉の塊で、外から見えている部分だけでなく後方にも一定の大きさがあるため、前方部分の口の中の容積が小さくなると居場所がなくなり、舌全体が後方に押しやられてしまいます。
このことにより咽頭部が狭くなり、無呼吸症を発生させてしまうのです。

歯を抜かない矯正と顎を育てる支援

歯並びが悪い方は基本的に顎の大きさが小さく、この小さな顎の中に歯を並べるために歯を抜いて歯並びを整えるという矯正方法が主流でした。

しかしながら顎を小さくまとめてしまうと無呼吸症のリスクが高まってしまうため、歯を抜かない矯正治療を選択しなければなりません。
このために最も良い方法は、成長期に適正な顎の大きさになるよう支援をすることです。
成長期にあごが小さくなる傾向の子どもはおおむね口呼吸です。
また舌や口の周りの筋肉の使い方を間違って学習している場合もあります。

これらを改善し正しい成長の過程を支援することで、歯並びが良くなるとともに、健康に生活できる呼吸器官の機能を手に入れることができるのです。

なんでも食べられることが健康の基本 ~噛める入れ歯づくりのポイント~

なぜ入れ歯で噛めないのか

「食事をする」

これはヒトのみならず動物が生命を維持するうえで最も基本となる行動です。
ヒトが生命を維持するためには糖質・蛋白質・脂肪・ビタミン・ミネラルなど、あらゆる栄養素が必要であり、それらは様々な食材から摂取します。

このためどのような食材でも胃袋に運び入れることができるよう、消化器官の入り口である口では、なんでも噛み砕いて食べれることが要求され、そのために歯は非常に大切な役目を担っています。
しかしながら歯を失った場合には、入れ歯を用いてその機能を取り戻すこととなります。

この入れ歯には本来の歯と同じように機能することが期待されますが、適切に作製されていない入れ歯ではなかなかうまく噛むことができません。

これは入れ歯自体が安定せず「動く」ことによって引き起こされています。

本来噛む力は歯と歯を支える骨が受け止めていますが、取り外しが可能な入れ歯の場合では、歯ぐきがその力を受け止めなければなりません。
このため歯ぐきの上で入れ歯が動く状況が起こると歯ぐきに擦り傷ができ、痛みが生じて噛むことができなくなるのです。
ですから、入れ歯により噛む機能を回復することになる場合には、入れ歯が動かない様に作製することが重要となるのです。

動かない噛める入れ歯づくりの5つの要素

① 正しい顎関節の位置
動かない入れ歯を作るには正しい顎関節の位置で上下の歯が接触するように設定しなくてはいけません。
歯科医師の指示により「咬んでください」と言われて咬み合わせる位置を決定した場合では、かなりの確率でずれが発生しており、このずれのため実際に入れ歯を使うときには入れ歯が動いてしまう原因となってしまいます。

② 適合性の高さ
入れ歯は精密に歯ぐきや歯と接触しなくてはいけません。
このため入れ歯づくりでは精密な歯型を採ることが必要となります。
特に歯ぐきの型取りでは、型取りの材料や型取りの仕方によって歯ぐきがひしゃげたり変形したりします。
こうなると出来上がった入れ歯は歯ぐきに添わず、入れ歯の動きを引き起こします。

③ 正しい高さ
歯が無くなった口の中では上下の歯の高さを任意に設定できます。
しかし本来の高さよりも高かったり低かったりすると、うまく噛めません。
本来の上下の顎の距離は、顎を動かす筋肉の長さによって決まりますが、おおむね目じりから口角までの長さと、小鼻の下部からオトガイ部の顎の骨下部までの距離が一致することから、この長さを合わせることで高さを決めると良いとされています。
自身のお顔を鏡で見て口がへの字になっていたり、口角が下がったようになっている場合は、入れ歯の高さに問題があります。

④ 整った歯並び
上顎または下顎の歯を連ねた状態でできる面を咬合平面といいます。
この咬合平面は少しの湾曲がありますがおおむね平坦になっていることが必要です。
さらに顎の骨と平行な状態でこの平面が設定されることで入れ歯に加わった力が顎の骨に対し垂直的に加わり安定するようになります。

⑤ 入れ歯の留め具
部分入れ歯では残っている歯に入れ歯を支えさせるため留め具を設定します。
この留め具にはいろんな種類がありますが、留め具を強く作れば入れ歯自体は動きにくくなる反面、支えの歯を傷めてしまうことにもなります。
必要な維持力と無駄な力を逃がすことができる留め具を選択することが大切となります。

入れ歯の調整

最後に十分な調整を根気よく行いましょう。
入れ歯を作るときに作成した模型では歯ぐきの弾力や筋肉の動きは記録されていません。
実際に入れ歯を使い、口の中の状態に合わせて噛む力の負担を均等に調整し、筋肉の動きの邪魔をしないように入れ歯の大きさを調整することが不可欠です。

生きることを支える大切な「噛む」という機能を守るため、妥協はせず、しっかりとした入れ歯を作りましょう。

歯磨きだけでは歯は守れない ~予防歯科に欠かせない咬み合わせの管理~

予防歯科の条件

「人が生きる」このために欠かせないのが歯であり、口の健康です。ヒトの体を構成する60兆個ともいわれる細胞は、口を使って食べた物から栄養を摂り込み、生命を維持しています。

ですから歯を失うことなく、口を健康に保つことこそが、健康な長寿の秘訣です。
そのために予防歯科を掲げ、患者さんの口の健康管理を行う歯科医院が増えました。しかしながら定期健診で歯石を取り、口の中のクリーニングを続けているにもかかわらず、歯が悪くなり抜かざるを得なくなる方が絶えません。

これは歯を失うに至らしめる過剰な力が発生しないような取り組みが予防歯科の内容に於いて提供できていないからです。

多くの歯科医院では口の中の衛生管理を行うことが歯を守る予防歯科と考えています。
しかし衛生管理で口の中の細菌を減らす支援は、むし歯や歯周病に対してのみ有効で、過剰な力で、歯が割れたり、欠けたり、磨り減ったり、グラグラになってしまう、歯に加わる力の問題には対処できないのです。
力の問題で歯が壊れないようにするには咬み合わせを整えることが必要です。

ですから、正しく予防歯科を行うとするならば、咬み合わせの管理を予防管理のプログラムに取り込まなくてはなりません。

歯医者も知らない、歯に加わる力の管理の大切さ

一部の歯科医師は衛生管理により口の中の細菌を減らせば歯を失うことが無いようにできると思い込んでいます。
しかしこのような歯科医師を主治医にした場合には、力の管理をしてもらうことはできない訳で、歯に加わる力の管理ができていなかった場合には、結果歯を失うことになります。
歯は食物を摂取し、噛み砕いて胃に運ぶという消化器官としての最初の仕事をします。
この咬み砕くという動作では、大きさが1cm四方の小さな歯に最大で100㎏以上の力を加えることとなります。

このため、顎関節の正しい位置で歯の垂直方向に正しく力が加わるようにすることでこの力をしっかりと受け止めなければなりません。
また擦り合わせるような動きでは、前歯が顎の動きを誘導し、奥歯には引っ掛かりが無く歯を揺さぶるような力が加わらないことが重要です。

このような上下の歯の関係性は咬合と呼ばれ、その良し悪しで歯への負担は大きく変わってしまいます。この咬合が適切にコントロールされていなければ歯は壊れます。

歯に加わる力を管理する方法

歯科医師はこの力により歯が壊れることを防ぐため、歯の向きを変えたり、擦り合わせを調整したり、磨り減りにより失われたエナメル質を回復させたりします。

これが歯を守ることに繋がります。

歯の向きを変える方法は、矯正治療と呼ばれる方法です。
一般的には見た目を良くするために歯並びを整えることが矯正治療と考えられがちですが、長く使い続ける歯を力によって壊れにくい状態にするためには、歯の位置を動かす治療手段は欠かせません。

擦り合わせを整えるのは咬合調整と呼ばれます。

歯の表面は1.5mm程のエナメル質におおわれていますから、このエナメル質の範囲内であれば歯科医師が歯を削ることにより過剰な上下の歯の接触関係を改善することができます。
磨り減りのためにエナメル質が失われたり、薄くなっている場合には、歯に冠をかぶせることによって歯の形を整え治し、上下の歯の接触関係を改善します。
不良な力や長期の歯の使用により傷んだ歯を長く使えるように改善するときに行う修復による治療法です。

これらの方法を組み合わせ、患者さんごとに安定した咬合を確保することが、力により歯を失うことから歯を管理する具体的な方法です。

メンテナンスと予防歯科

主治医により安定した咬合の状態を確保してもらって
も、そのまま放置してしまうと歯が壊れます。平素の歯
の利用により、歯は磨り減り、微妙に動いているからで
す。このためメンテナンスにより定期的に安定した咬合
状態が維持できているかを確認することが重要になりま
す。
メンテナンスとは、歯垢や歯石の除去を行うクリーニ
ングと咬み合わせの状態を適正に保つためのチェックと
微細な咬合調整を組み合せて行うことが必須であり、こ
の支援を行う歯科医療が本来の歯を失わない支援である
予防歯科と言えるのです。
取り換えのない歯を大切に使い続けるためには、咬合
の事に関してもしっかりと対処してくださる予防歯科の
先生を選択することが重要となります。もし現在の主治
医が咬合の管理をしっかりとしてくれていないように感
じたならば、一度「私の咬み合わせは大丈夫ですか」と
尋ねてみましょう。

自分に合った歯医者さんを見つけよう ~歯科治療の成功は、ドクターとのコミュニケーション~

良い歯科医師の概念

私が大阪大学医学部名誉教授であった故中川米蔵先生と出会ったのは20年ほど前に参加した医療行動科学学会主催のセミナーでした。

そのセミナーの中で中川氏は、
良い医師とはどのようなイメージなのかを調査結果をもとに説明されました。

医師が考える良い医者とは、「腕がいい」という回答がトップで、2番目に多かった回答は「患者によく説明する」でした。
これに対し患者に良い医者とはと尋ねたところ、3位が「腕がいい」、2位が「いつでも診てくれる」、そして1位が「患者の話をしっかりと聴いてくれる」ということでした。

この調査結果からは興味深い事実が見えてきます。
医師は良い医者であるために一生懸命説明をして話をしようとする。
これに対し患者は自分の話しを聴いてほしいと思っているわけで、一生懸命説明をすることで良い医者になろうとしても、実際には患者から良い医者とは思ってもらえていないということです。

このことから患者さんにとって安心できる良い歯科医師とは、患者として今抱えている口の中の悩みをしっかりと聴いてくれる医者だということがわかります。

歯科医師に何を話せばいいのか

患者としての悩みを医師に聴いてもらうと言っても、専門家ではないので、病気のこと、治療の事など、知識がなく何を話してよいのかわからない、このような話を伺います。
しかし患者さんが医師に対して悩みを聴いてもらうというのは、専門的なことなどは一切いらないのです。

多くの方は歯を治すために歯科医院に行くと考えています。
しかしこれは間違いで、たとえば歯が無くなった、歯が痛くて耐えられない、見た目が悪くて恥ずかしいなど、口の中のトラブルが原因として引き起こされている生活上の問題を解決するために歯科医院に行っているのです。

ですから患者さんは医師に対して、歯が無くて好きなお肉が食べられない、大事な仕事を控えているのに歯が痛くて集中して働けない、笑うと歯が見えるので恥ずかしくて人前で笑えないなど、ご自身が生活の上で困っていることを伝えればいいのです。

そのうえで重要なことは、自分が治療を受けた結果としてどのような状態になりたいのかを伝えることです。
今痛みが取れればいいのか、それとも二度とこのような痛みを味わいたくないのか、その希望によって医師が治療により支援する内容が変わるからです。

歯科医師としっかり話をするために

医師としっかり話をしたいと考えても、先生が忙しそうでなかなか時間が取れない。
ましてや歯科医院では口を開いて治療を受けているので話ができない、このような悩みを伺います。

歯科医院の仕事をビジネスの目線で評価すると、保険診療の場合では安価に抑えられた治療費のため、多くの患者さんに対処しなければならない、薄利多売大量生産型のビジネスモデルとなっています。
このため治療費用をいただけない相談ではなかなか時間を確保してもらえません。
しかし多くの医師たちは患者さんと話をすることの大切さを理解しています。

そこでじっくりと相談をしたいとお考えになられましたら、予約の取り方を工夫しましょう。

予約の際に「治療のことで相談の時間を取ってほしい」とお願いしてみてください。
そうすれば医師は相談の準備で患者さんと向き合ってくださいます。

命を守る歯の治療 ~なんでも食べられることの大切さ~

歯の数と食材

身体は60兆個ともいわれる細胞から構成されています。

これらの細胞が正しく活躍し、身体を健康に維持しているのです。そしてそのための栄養摂取が「食べる」ということです。

しかし闇雲になんでも食べればよいということではありません。
細胞の隅々にまで必要なエネルギーがたどり着くには、三大栄養素と呼ばれる、炭水化物・脂質・タンパク質をバランス良く摂取しなくてはなりません。

しかしながら歯が悪くなると、このバランスの良い栄養摂取が難しくなります。
しっかりと噛み砕かなければならない食材は避けるようになり、反対に空腹感を満たすことができ、噛み砕く作業が少なくても食べられる糖質の摂取量が増えてしまいます。
このことにより身体の調子が悪くなり、病気を引き起こすのです。

グラフ1:失った歯の数と栄養摂取量の関係、
炭水化物だけが歯の喪失と反比例して増える

なんでも食べられる入れ歯づくり

この状況を回避するためには、なんでも食べることができるしっかりとした入れ歯を作ることが求められます。

しかし入れ歯は自分の歯とは異なり、本来は食物を噛むための道具ではない歯ぐきを用いて噛みます。
実際に噛むときには、歯ぐきに大きな力が加わりますから、歯ぐきの広い範囲を使って噛む力を分散させつつ、噛める構造にしなくてはなりません。
このため残っている歯や場合によってはインプラントなどの手助けをうまく活用し、噛む力を効果的に負担させることが必要となります。
人によって歯を失うに至った経緯が異なりますから、負担のさせ方をどのように行うかが、歯科医師としての診断力と治療計画立案力になるのです。
そしてその二つの力を支えるのが、個々の患者さんの口の中に対する正しい理解です。

良く噛める入れ歯づくりは、精密な検査から

多くの患者さんや歯科医師においても、失った歯の作り方にのみ目が行きがちです。しかし大切なことは、

あなたの歯が

「なぜ抜かなくてはならなくなったのか」

「入れ歯を必要とするようになったのか」

という今までの歯を失ってきた経緯自体が重要なのです。

もし歯周病が原因で歯を失ってきたとすると、顎の土手の骨は貧弱であり、歯のみならず失った歯ぐきを補う入れ歯が必要です。
咬み合わせが原因で歯を失った方であれば、適正な顎の位置や動きを確保する入れ歯の設計と作り方が求められます。
虫歯であれば、支えとなる歯を清潔に管理できる構造が求められるのです。

つまり、より良い入れ歯づくりには、患者さん個々の口の中の状態とその状態を引き起こした経緯を把握し、今以上に悪くならないために何が必要かを考えなければならないのです。
歯が無いから入れ歯を入れましょうではなく、なぜ歯を失ったのかを正しく理解することから治療を始めてください。

そのための精密検査を受け、その状況に至った原因が見つかれば、良く噛める入れ歯づくりのポイントが見えてきます。

歯が使えなくなる第3の病気 ~咬合病から歯を守ろう~

治した歯が壊れる、歯が使えなくなる

 若いころは歯が良かったにもかかわらず、1本歯を失いその歯をブリッジで治した頃から歯医者さんに通う回数が増え始めるようになった。
治したブリッジがだめになった後は部分入れ歯となり、その入れ歯も支えになる歯が壊れてしまった。
歯がだめになるたびにその歯を抜いて新しい入れ歯を作り直すようになる。
これではいけないと、改心してしっかりと歯磨きも定期検診にも通うのだが歯は悪くなる一方。
年を取るとはこういうことかとあきらめてはいるものの、今まで食べられたものが、咬めないために食べられないのはやはりつらい。
現在では奥歯はすべて入れ歯になりました。
今後もさらに歯が無くなるのではないかと不安です。

実はこのような歯の悩みをお持ちの方が多いのが現状です。
むし歯や歯周病の問題が見つかればすぐに治療を受け、定期検診も受けているのに歯が壊れてしまうのはなぜなのでしょう?

それは咬合病(咬み合わせの不具合によって起こる様々な病的状態)に対する対処が行われなかったためです。

正しい咬み合わせと咬合病

上下の歯は正しい顎関節の位置ですべての歯が均一に接触することが大切です。
そのうえで下あごが動くときには前歯がその動きを円滑に誘導しなくてはなりません。
またこの誘導により奥歯は離れるようになっていることで、奥歯には無理な力が加わることが無く、咬み合わせが安定します。
このような状態が確保されていないと、この不調和な状態を改善するように身体の適応反応が働き、くいしばりや歯ぎしりをしてしまいます。
この時の無理な力が歯を壊すのです。

力負け

むし歯で修理した歯や神経を取り除いた歯は本来の歯の強さを持っていません。
さらに歯を失った状態を回復するためにブリッジや入れ歯を入れたとすると、支えとなる歯は本来のその歯の負担能力を超えた力を引き受けることになります。
1本の奥歯には100㎏以上もの力が加わることもありますから、治療を受けた口の状態ではすべての自分の歯が整っていた若いころと同じだけの咬む力を引き受けられません。
しかし治療後も以前と同じような使い方をしてしまうと歯が力負けしてしまい壊れてしまうのです。

食いしばりと身体の様子

正しい咬み合わせをしていても歯の限界以上に力を加えると歯は壊れます。
食いしばりや歯ぎしりをする場合には人の身体をコントロールする交感神経の働きが関わっています。
つまり交感神経が過剰に働く状態を持っている人は、歯が壊れるのです。

ストレスや疲労も原因ですが、栄養摂取の状態が悪くても交感神経は過剰に働きます。専門医の指導を受け体調管理を行うことも歯を守るために必要です。

咬合病の見つけ方

これらの咬合病は歯の状態を観察すれば容易に発見できます。

前歯を見て歯の磨り減りが強かったり、奥歯の歯ぐきから出ている歯の高さが低くなっていたり、歯を抜かなければならなくなった理由が、歯根が割れてしまったというような方は、この咬合病が発生しています。また顎の骨の一部が瘤のように膨らんできている方、顎関節症の方、頬の内側に圧痕がある方も要注意です。

早めに歯科医師に相談し、適正な咬み合わせの確保と自分に合った歯の使い方を確認することが咬合病から歯を守る方法です。

異常な歯の磨り減り
骨にできた瘤
頬の圧痕

いい入れ歯を作ろう ~基本はコミュニケーション~

入れ歯での悩み

「痛くて入れ歯を使えない」

「入れ歯が外れてしゃべりにくい」

「入れ歯を支える歯が次々に抜けてしまう」

「見た目が悪く顔つきが変わってしまった」

入れ歯でも苦労なく快適に過ごしている方がいる反面、悩みが絶えず日々憂鬱な毎日を過ごしている方がおられます。
この違いは何によるのでしょうか?

入れ歯でお困りの方がお越しになる皆さんに共通した特徴があります。
それは、困った状態を我慢している、入れ歯の不具合を歯科医師にうまく伝えられていない、何度か調整に行ったがそれが迷惑なのではないかと考え行かなくなる、不具合を申し出たところ歯科医師から不機嫌な顔をされたり怒られた、といった点です。

つまり治療を担当する歯科医師と適切な意思疎通=コミュニケーションが取れていないという点です。

治療前の相談

入れ歯治療を始めるに当たっては、

「先生にお任せすればちゃんと良くしてくださる」という考え方を捨てなければいけません。
治療を受ける方それぞれで考え方、困りごと、身体の特徴、治療に当たり優先したいこと、生活習慣、体調など、すべてが異なります。
そこで歯科医師はこれらの事をしっかりと理解したうえで、患者さん個々に最適な状態は何かを模索し、より良い結果を導く方法を検討し、その結果についてお知らせをすることが重要となります。
患者さんの期待どおりの治療結果を導くことは最高の事ではありますが、さまざまな事情から期待に添えないこともあるわけです。

ですから治療に先立ってどのような状態を目指すのかを良く話し合うことが重要となるのです。

問題解決の手立て

入れ歯治療では成功のためにいくつかのポイントがあります。

その中で最も重要な要素は、正しい顎の位置で均一に上下の歯が接触するように咬みあわせを作り上げるということです。

入れ歯で悩む多くの方は、歯を失ったその部分に入れ歯という歯を入れる治療を受けておられます。
しかし口は個々の歯で仕事をするのではなく、口という器官全体を使って、食物を食べる、話をする、笑顔を作るといった仕事をしています。
このため常に口全体を見渡した配慮が必要であり、部分的な処置では成功しないのです。

歯科医師はこの治療の必要性を正しく患者さんに伝えなければならず、この点においても適切な説明が欠かせません。

微妙な調整

精密な歯型をとり、きれいな歯を作ったとしても実際の口の中は歯型の模型とは異なります。

歯ぐきには弾力がありますが、場所によって歯ぐきの厚みが異なります。
このため咬みこんだ時の歯ぐきのひずみ量も異なり、その誤差の調整が必要です。
また円滑な顎の動きを妨げない上下の歯の接触関係は、最終的には口の中でしか調整できません。
安定して快適に使える入れ歯を作るためには、入れ歯が完成してからの調整が不可欠なのです。

調整を行うに当たって、不具合内容やその場所の報告は患者さんの役割です。
遠慮せず不具合の状況を正しく報告しながら歯科医師と患者さんが二人三脚でより良い状態を目指していくのです。

このような患者さんと歯科医師の適切なコミュニケーションはより良い入れ歯を作成するために最も必要なことです。
患者さんは遠慮せず何でも話す、歯科医師はしっかりと患者さんの訴えに耳を傾ける、これは両者の人間関係の問題に関わりますから、適切なコミュニケーションが可能となる自分に合った歯科医師を選ぶことも重要といえるでしょう。

 

健康な口を守る、長持ちする歯科治療 ~高品質の歯科治療とは~

保険治療に満足されてますか?

車を買う場合であれば、安価で手に入る軽自動車を買う方もあれば、安全で居住性の良い外車を買う方もあります。
飛行機に乗る場合でも、エコノミーを選ぶ方もあれば、ファーストクラスを利用される方もあります。

ではあなたはあなたの口の治療をどのように選択されているのでしょうか?

あなたが日々使っている「口」は、人生の終わる瞬間まであなたの身体に栄養を供給するための消化器という臓器であり、取り換えのない物です。

そこに発生したトラブルを改善する保険治療は、憲法第25条に基づき施行された社会保障制度の一つで、「すべての国民は健康で文化的な最低限の生活を営む」ということを前提として提供されています。

この治療は取り換えのない身体を治療するための最善のものではないことを理解されていますでしょうか?

問われる歯科治療の質

身体の状況や個人の希望、何よりも自分らしくあるために失いたくない事柄はすべての人において異なります。

ですからそれぞれの人の期待に対して対応しながら提供される歯科治療は、すべて異なるオーダーメイドの物です。
その質が高いということは、個々の治療が確実にしかも良質の材料を用いて安全に行われることだけではありません。
これらは医療では当たり前のことであり、治療の質の物差しにはならないからです。

高い品質の歯科治療とは、患者さん個々の個別の期待を明確に捉え、その期待に的確に応える事なのです。

保険診療と自由診療

自由診療といえば高級なものというような誤った評価がありますがそれは間違いです。

最低限の生活を保障するための保険診療では、診査診断の手順、使える器材、治療の仕方、使う材料、手間のかけ方など、すべてにおいて制限があります。
そしてその費用は低価格に抑えられているため、歯科医院は薄利多売の大量生産型ビジネスモデルとしての医療経営を迫られています。

このビジネスの対象者として患者さんが扱われているのです。
その結果がどのようになるかはご想像の通りです。

自由診療ではこのような制限がなく、一人一人に十分な時間を使い、患者さんが期待する結果を手に入れてもらえるよう、最適最善の治療方法、技術、器材、材料を用いて治療を行うことができます。

これが2つの診療方法の違いであり、質の高い治療が提供されるのが自由診療なのです。

診査と診断から始まる質の高い治療

高品質の歯科医療が提供される前提となるのが診査診断です。
この診査診断は、患者さん個々の状況を把握するインタビューから始まります。
引き続き検査が行われ、これらを合わせてアセスメントされ、診断と個別の健康獲得の計画が立案されるのです。
このように計画され実施される自由治療では、必要な時間が必要なだけ確保されて展開されます。

この結果、質の高い治療が提供されるのです。

歯科医療における質の高い治療では、治療の予後の経過が長期に安定する、すなわち長持ちする結果を獲得できます。
日本の保険医療制度は、すべての人に医療サービスを提供している点で大変価値ある制度といえます。
しかしその制度が提供する医療の質を正しく理解し、得られた結果があなた自身の期待に沿っているかを検証しなくてはなりません。
なぜなら、親から与えてもらった体の中に、唯一他人が手を加えて改造を行うのが歯科治療であり、だからこそしっかりと見極め自分自身で納得できる治療を受けることが必要だからです。

健全な口が健康の基本 ~これからの歯科医療の役割~

目指せ! ピンピンコロリ!

長野県佐久市の成田山参道にはピンピンコロリ地蔵尊というユニークなお地蔵さんがあり、多くのご年配の方々がお参りにお越しになります。
このお地蔵さん、健康なまま天寿を全うする意味の「健康で長生きし【ピンピン】寝込まず楽に大往生する【コロ】」をヒントに命名されたのでした。

ではどのようにすればピンピンコロリの人生が迎えられるのでしょうか?

ピンピンコロリで人生を終えるには、天寿を全うするその時まで病気にならないことが必要です。
そこで予防医療の観点から病気になる原因を探ってみました。
すると、病気になるには大きく3つの原因があり、これらの原因を取り除けば病気にならないということがわかりました。

この3つとは、

①感染【体の中にはないものが入り込む】

②栄養失調【身体を維持するために必要な栄養素の種類と量が足りない】

③酸素【細胞が必要とする酸素が適切に取り込まれない】

です。

そしてこれら3つの事柄は口の管理と深く関係していることもわかりました。
ですから、ピンピンコロリを目指すのであれば、口を健康に保つことが重要となるわけです。

感染を防ぐ歯科医療

身体の中に本来無いものが入り込むことを感染といいます。

冬に流行するインフルエンザもその一つであり、ウイルスが身体の中に入り込んで発症します。
これらの細菌やウイルス(※感染ではないが水銀など有害金属の体内への蓄積も同様に考える)は、3大感染経路を伝って身体の中に侵入します。
3大感染経路とは、上咽頭(鼻と口のつながる喉の上部)、歯周病発症部根尖病変部(歯の根の先端の炎症部分)なのです。
3つのうち2つは歯科治療で取り扱う病気です。
また上咽頭部からの感染は、上咽頭部の通気量が少ないと起こりやすく、これもまた顎の成長発育、口腔周囲の筋の使い方と関連しています。

ですから、口にまつわる病気は徹底的に取り除き感染を未然に防ぐことが病気を防ぐことになるのです。

栄養摂取を守る歯科医療

歯が悪くなると食材を選ぶようになります。
硬いもの繊維質のものなどは食べずらくなり、結果お米や麺類など、お腹の満腹感を満たそうと炭水化物に偏った食生活に陥ります。

この結果栄養摂取の種類と量に偏りができ、細胞の修復機能が低下したり、酵素やホルモンが作れなかったり、身体の酸化が進んだり、また血糖値の調整障害などを引き起こすのです。

どのような食材も選ばずにしっかりと食べられる、噛める口を確保することは健康管理の基本であり、歯科医療の役割です。

呼吸器を育てる歯科医療 口は消化器の一部であり、身体に酸素を取り込む呼吸器ではありません。
しかし呼吸器の鼻と口は上下の関係であり、なおかつ喉(咽頭)の部分では酸素と食べ物の通り道を共有しています。
このため口という臓器の健全な成長発達が呼吸にも影響を与えますし、また呼吸の仕方が口にも影響します。

近年歯並びが悪い子供たちが増えていますが、そのほとんどの子どもたちに口呼吸の状態が認められます。
口呼吸をすると、舌の位置が下がり、上あごを押すことが無くなるため顎の成長が少なくなり、歯ならびを悪化させます。
さらに舌の落ち着くスペースが不足し咽頭部を塞ぐため、睡眠時無呼吸症のリスクを高めるのです。
このような病気などで酸素の量が減ると、脳卒中や心筋梗塞などの病気のリスクが何倍にも高まるのです。

口を健康に成長発達させる歯科医療としての支援もまた、ピンピンコロリを目指すための重要なことなのです。