いびきを見逃すな ~睡眠時無呼吸症が引き起こす命の危険~

いびきはどうして起こるの?

豪快ないびき、周りで寝ている者はたまったものではありませんが、本人は全く意識が無く単なる厄介なものとして扱われてきました。
いったいどのようにしていびきは発生するのでしょうか?
身体には、酸素を体に取り入れるための呼吸器と栄養を取り入れるための消化器があります。
鼻から始まり肺へとつながる呼吸器と口から始まり胃へとつながる消化器は、咽頭と呼ばれる喉の部分を共有して使っています。
この咽頭部分で空気の通り道が狭くなると粘膜が震えていびきが発生します。
そしてこの空気の通り道が閉まってしまうと睡眠時無呼吸症が発症します。

消化器である口の中には舌がありますが、この舌が睡眠時に後方に沈下して押しやられることが、この気道を狭くしたり閉鎖してしまう原因なのです。
本来舌は下顎の骨の中に鎮座していますが、あごが小さく歯並びが悪くなっている現代人や、肥満などで喉周りや舌の内部に脂肪が増えた方の場合にはこの舌が後方に押しやられ、咽頭を圧迫し、空気の通り道を塞いでしまうのです。
これがいびきの犯人です。

睡眠時無呼吸症のリスク

いびきの状態が進行すると一時的に呼吸が止まる状態が発生します。
呼吸停止が10秒以上続きこの回数が一晩に30回以上発生したり、1時間に5回以上繰り返されるようになると睡眠時無呼吸症と診断されます。
この状態の方では、熟睡感が無く、日中の眠気や倦怠感が生じるという自覚症状が出てきます。
このため、昼間に様々な事故を発生させる率が健康な人の2~7倍にまで増えるのです。

さらに生活習慣病に強く影響し、高血圧・高脂血症・糖尿病・脳卒中などを引き起こし、重症な方の場合では、心筋梗塞・脳卒中の発症率が健康な人よりも30%以上上昇するという調査結果も報告されています。
ちなみに睡眠時無呼吸症の診断に基づき治療を受けていると生命保険に加入できないようになりますが、この点から見てもこの病気の命に関わるリスクの高さが推察されます。

睡眠時無呼吸症の治療と予防

睡眠外来のある医療機関に受診すれば、確定的な診断を受けることができ、治療も受けられます。
最も効果的な治療法はCPAP(シーパップ)で、就寝時にマスクを着用し強制的に空気を送り込んで呼吸を支援するという方法です。
これとは異なり歯科治療でも中程度までの睡眠時無呼吸症を解消する治療法があります。
下あごの位置を前方につきだした状態で固定するように作成したマウスピースを就寝時に装着することで、舌の後方への沈下を防ぎ、気道を確保する方法です。
いびきの解消にもつながります。

予防方法は、幼少期からの成長において顎を小さく育てないことです。
正しい食生活により健康な口腔を育成することが最も良い方法と言えます。
この観点からいうと歯を間引いて行う矯正治療はできるだけ避けるべきであり、矯正治療が必要な場合は、顎の拡大処置を行い口腔の容量をできるだけ大きくする方法を採用されるのが良いでしょう。
また、肥満も大きな原因ですから適切な方法によるダイエットも予防法の一つと言えます。
歯科治療は、歯の修理業として発展してきましたが、医科と同様に健康を守る医療として重要な役割を果たすようになってきています。

歯科医療をうまく活用し、健康で豊かな生活を手に入れていただければと思います。

体の不調は、口の中の病気から ~2足歩行が引き起こした睡眠時無呼吸症~

ヒトという動物

哺乳類に分類されるヒトという動物は、2足歩行をすることが大きな特徴です。
そしてこの2足歩行をすることによりほかの哺乳類と大きく異なる体の構造を持つこととなります。
それは口と食道の間の部分「咽頭」の中央部分、中咽頭に現れています。
ここは空気の通り道と食べ物の通り道とを共有している部分ですが、2足歩行をするようになったことで顎の大きさが小さくなり、そのため筋肉の塊としてこの顎の中に納まっている舌が、後方の中咽頭を狭くしているという構造です。
そしてこの中咽頭のスペースを狭くする舌の存在が、睡眠時無呼吸症という病気を引き起こすのです。

睡眠時無呼吸のおこり方

ヒトという動物ではほかの哺乳類と異なり言語を持っていますが、この言語を発達させたのが複雑に動ける舌の存在です。
この舌は常時小さく固まった状態で顎の骨の中に納まっていますが、現代人では顎の大きさが小さくなる方向に進化したことや、肥満などにより中咽頭自体が圧迫されて狭くなったような場合において、この中咽頭を舌が塞いでしまうのです。
特に仰向けでの睡眠時には、重力によっても舌は後方に押しやられてしまいますから、この状態が強く発生することになるのです。

睡眠時無呼吸がもたらすリスク

睡眠時無呼吸症を発症するようになると、さまざまな命を脅かす問題のリスクが高まります。
睡眠時無呼吸症を発症すると、意に反して昼間に突然居眠りをしてしまうということが起こります。
そのため車などの運転中にこの状態になることで、交通事故を起こしてしまうのです。その発生確率は、健康な人の2~7倍になると言われています。
また、生活習慣病である、高血圧・高脂血症・糖尿病・脳卒中の重症患者の場合では、数年後の死亡率が40%を超えるというデータが得られました。

睡眠時無呼吸を予防するために

あごが小さく成長してしまうことでこの病気が起こることを回避するためには、体の成長期にある子供たちの顎の大きさが、正常な歯並びができる程度にまで拡大させることが効果的です。
また歯列矯正では、歯を間引くことがよくありますが、この方法も危険な治療法と考えられるため慎重に検討されるべきでしょう。
もし顎の成長が終わった後にこのような症状が発生した場合には、顎を大きくはできませんから、睡眠時にのみ下顎の位置を前方に固定するマウスピースの活用も予防には効果的です。
肥満を抑え、適切なバランスのとれた体形を維持するように努めることも、この病気の回避につながります。

良く眠れない、生あくびがよく出る、いびきをかくなどの症状がある方は、睡眠時無呼吸症になっているサインと受け止め、この病気がもたらすリスクを避けるため、早めに歯科医師と相談されることが賢明です。