「長持ちする歯科治療」~完全歯科医療の概念~

私が出会ったアメリカの歯科医

卒業後3年の勤務医生活を終えた私は、翌年に控えた自らの歯科医院の開業を前にアメリカへと留学しました。
その目的は、完全歯科医療をめざした診療を行っている歯科医師たちに会い、またその歯科医師たちが師事する咬合学(かみ合わせの理論)の大家P.E.Dawson先生のセミナーを受講することでした。
当時の彼は臨床歯科医師でありながらフロリダ大学での研究、さらには全世界の歯科医師を対象とした卒後研修セミナーを開催しているという、異色の活動を行う歯科医師でした。

患者さんに行う歯科治療の理論的説明

彼は完全歯科医療の概念に基づき、診査診断を行い、そして発見された問題を解決することによって、長期にわたり壊れない長持ちする歯科医療を実践していました。
その治療について患者さんに行う説明を、彼の著書[オクルージョンの臨床:日本語訳版]の中で以下のように紹介しています。

「あなたが口を健康にし、それを維持しようとするならば、われわれは次の2つの事を達成しなくてはなりません。

1、あなたの口の中で完全な清掃ができない場所をまったくなくす。

2、破戒的にならない程度まで、あなたの口の中のすべての咬合ストレスを減少させ
る。

これらの2つは私(歯科医師)の責任です。

あなたの責任は、あなたの口を完全に清掃に保ち、もし不均等な咬合ストレス(かみ合わせに違和感を感じること)が発生したら、それを正常に治すことができるように、私たちに知らせることです。
適切な食事と運動を続け、全身の健康を最高水準に維持することも、あなたの責任です。
もし私とあなたが各自の責任を完全に果たせば、あなたの歯を、あなたが必要とする限り守ることができるはずです。

治療が長持ちする訳

この患者さんへの説明文章をもう少しわかりやすく読み解いてみましょう。歯が使えなくなるのは、歯を失うに至らしめる病気が発生するからです。

その病気は、

①むし歯 ②歯周病 ③かみ合わせ です。

これら病気の内、むし歯と歯周病は口の中に住む細菌が原因で起こります。
ですから「完全な清掃ができないところをなくす」、「口を完全に清潔に保ち」という言
葉は、この2つの病気の原因である細菌を完全に取り除ける状態にするということを意味しています。

次に、かみ合わせという病気ですが、これは上下の歯の接触の仕方、顎の動きによる歯のすり合わせにより、歯に無理な力が加わって、歯が欠けたり、磨り減ったり、またグラグラになることで使えなくなることです。
正しい顎関節の位置で咬みあわせが作られていないとか、無理な咬ませ方をしているなどが原因です。
ですから、「咬合ストレスを減少させる」という言葉は、この不良な咬みあわせにより歯が壊れることから歯を守る対策を行うということを意味しています。
このように病気の原因から取り除くことで、新たな病気が発生しないようにすることが、歯を悪くしないと言い切っているのです。

完全歯科医療を行うには

治療結果が長持ちし、いつまでも快適に歯が使い続けられるためには完全歯科医療の概念に基づき治療を受けることです。
そのためには正しい診査・診断が不可欠となります。治療にあたっては、気になるところからやみくもに始めるということをしてはいけません。
口全体が一つの臓器ですから、総合的に評価を受けてから治療を受けてください。

それが何度も治療をやり直すということを防ぐ唯一の方法です。